妖精の譜歌〜The ABYSS×elfen lied〜

□Episode,8【ようこそバチカルへ・後編】
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眼が覚めると、天蓋付きベッドの天井と、それから寄り添うように睡眠を貪る兄の姿が飛び込んできた。

いつ戻ってきたのだろう?

昨晩、公爵邸でルークに会ったところまでは覚えている。
そこで眠ってしまっただろうが、では何故自分はここ――お城で設けられた客室の寝台で眠っていたのだろうか。

しかも、ご丁寧にパジャマに着替えさせて。
そこで事の重大さに気付くと、小さな手はカメリアカラーの頭部に触れる。


「ちっ……余計な事を……」


パジャマはともかく、頭部に被された布生地の感触が気に入らなかったのか、カマラは毒々しく呟いた。


見られた?

見られたのではないか?

だとしたら誰に……?


カマラは、隣の寝台で眠るジェイドを、ぎろりと睨む。
器用に眼鏡もかけて眠りについている中年軍人も眠るのだとカマラは思ったが、
今はそんな事を考えてる場合じゃなかった。


アレを見られたならば、そいつを始末しなければ!

ゆらりと寝台から降りるとカマラは客室を後にした……




Episode,8 【嗚呼、ようこそバチカルへ・後編】


さあ、余計な事をしてくれた悪い子はどいつだ……?


城内を忙しなく徘徊するメイドや、各部屋の番を務める兵士ひとりひとり見つめた。

着付けの仕事はメイドだ。
見られたならメイドと言う確率が高い。
問題は、それを見た奴がその事を黙っていられるのかだ。

答えは否。
お喋り好きのメイドの事だ。
角の生えた異端児を、談笑の材料にしないわけがない。


「おはようございます」


衣服が詰まった洗濯籠を持ち上げている洗濯女中(ランドリーメイド)がカマラの姿を眼にすると、腰を折った。
さらに別のメイドがすれ違い間際に朝の挨拶――廊下を行き来するメイド達は、お客様であるカマラに頭を下げる。

いくらなんでも、メイドの数が多すぎる。


(どうしよう……これじゃあ解らない。早く特定しなきゃ噂になっちゃう……そうなったら、怖いのがくる……!)


小さな肩がかたかた震える。
ランドリーメイドが心配そうに見つめるその視線が恐ろしくてたまらない。


(殺さなきゃ……)


そこでカマラは我に返る。
今、自分はまた誰かを殺そうとしたのか?
止められているはずなのに……?


「どうかなさいましたか?」

「な、んでも、ない……」


指し伸ばされた手を拒むように、カマラは走ってその場からに逃げた。




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