妖精の譜歌〜The ABYSS×elfen lied〜

□Episode,6【ようこそバチカルへ・前編】
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「うひーーー! すっごい何コレ!? 街が縦長だよ!! ヘンテコだね!!」


キムラスカ王国王都バチカル。
かつて巨大譜石が落下して出来たくぼみに設けられた街だ。
上へ上へ創り上げられている街の遥か高みには、神の家城の如く、王の住まう城があるのだろう――
いわば町全体が自然の城塞に囲まれていると言うことか。


「すごいね、なんか高い! すっごく高いよ!!」


山から湧いて出てきた田舎娘よろしくはしゃぐカマラになんとも言えない視線を当てていた一同の前にキムラスカの軍人――紅い軍服を纏った大柄なヒゲの男性と、金髪のうら若い女性――が出迎えた。


「お初にお目にかかります。キムラスカ・ランバルディア王国、第一師団団長ゴールドバークと申します。
 この度は無事のご帰還、誠におめでとうございます」


男性――ゴールドバーグは師団長の称号に相応しい威厳ある声で、敬意ある言葉をルークに捧げた。
そして話が反れるのはすぐのこと。


「マルクト帝国から和平の使者が同行しておられるとか?」


ゴールドバーグの言葉を受け、イオンは一歩進みだす。


「ローレライ教団導師イオンです。マルクト帝国皇帝ピオニー九世陛下に請われ、新書をお持ちしました。
 国王インゴベルト六世陛下にお取次ぎ願えますか?」


14歳と幼いながらにして導師の座に鎮座する少年の声は高く澄み切っていながらもどこか凛としていた。
これがローレライ教団最高責任者たる人間の風格か。


「無論であります。皆様の事は、このセシル少将が責任を持って城にお連れ致します」


「セシル少将であります。宜しくお願い致します」


それまで直立不動で待機をしていた金髪の女性――セシルは名乗りを上げた。
疲労を浮かべたルークと、それからガイに視線を移す……。


「俺――私は……ガイ、と申します。ルーク様の使用人です」


なんとなく歯切れの悪いガイの紹介が終えると、次にオラクルの軍服を纏った女性ふたりを見据える。


「ローレライ教団情報部第一小隊所属、ティア・グランツ響長であります」

「同じく、ローレライ教団導師守護役所属、アニス・タトリン奏長であります」


次の青い軍服を身につけた憎むべきだったマルクトの軍人を、睨むまいと意識しながら見つめると、彼は名乗りを上げた。


「マルクト帝国軍第三師団団長、ジェイド・カーティス大佐です。
陛下の名代で参りました」


ふたりのキムラスカ軍人の顔が強張るのを、胡乱気に細めた赤い瞳が見た。


「き、貴公が……あのジェイド!?」


以前、ケセドニア北部の争いでジェイドに軍を壊滅に追い込まれたセシル将軍の顔にかすかな恐怖が彩る。
そんな彼女とが対照的にゴールドバーグは冷静を取り繕って頷く。


「皇帝の懐刀と名高い貴方がいらっしゃるとは……なるほど、マルクトも本気ですな」

「国境の緊張状態を考えると本気にならざるを得ません」

「仰る通りだ……して、大佐。そちらのご令嬢は?」


上下に行き来する天空客車を指差す少女のことを訊かれ、ジェイドは「ああ」と、関心をカマラに向けると、ナチュラルにさらりと言ってのけた。


「娘ですよ。任務のついでに連れてきました。いやー、初めての国外にとーってもはしゃいで……少々うるさいですね」


場の空気が強張る。
後半のジェイドの言葉なんて、誰も聞いちゃいない。
カマラに近づき、目線を合わせるように腰を下ろすと、人差し指を立てて、静かにしなさいとたしなめた――

誰かが生唾を飲み込む音が聞こえる。



娘って、なんだよ。




Episode,6 【嗚呼、ようこそバチカルへ・前編】
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