妖精の譜歌〜The ABYSS×elfen lied〜

□Episode,0【郷里】
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「ここらへん……だよね?」


幼い風貌の少女は首を傾げて、傍らで生あくびを噛み締めるライガ――狼のような魔物――に訊ねた。

「もう、お兄ちゃんったら! こっちの方角だって言ったのはお兄ちゃんでしょ! 頼りにしてるのに、そんなんじゃ、いつまで経ってもママの新居に行けやしないわ」


頬を膨らませて怒る少女は相当ご立派なようだが、なまじ童顔なばかりに説得力も威厳も見出せない。
兄のライガはそんな妹を愛でるように鼻を手に擦りつける。


「……もう。お兄ちゃんはダメだね。」


呆れて肩を竦ませると少女は歩いた。


先日、少女の家でありライガ族の巣であった森が火の海になって滅びたことは魔物たちの風の噂で聞いた。
ライガ族の長であり、少女の母であるライガクイーンはここ――マルクト帝国ルグニカ大陸の森を新居にしたと言うことも……。


「ったく、ママは産婦さんなのに、いい迷惑だよねー」


そう言う少女の顔はどこか嬉しそうだった。

もうじき、自分の弟や妹が生まれるのだ。
彼ら彼女らをなんと名づけようか。いくつか候補が決まっているが、きっとそれだけでは足りないだろう。


「うふふ……ふふふふ……!」


ひとり微笑む少女はふと何かを見つけた。
薄桃色の視線の先――よく茂った森の出口に一匹のライガがことらを見ていた。


「見て、お兄ちゃん! きっとあそこだよ! やった! ついに辿り着けたんだね!」


嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる妹に答えるように、ライガは遠吠えはどこまでも響いた。




Episode.3【郷里】
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