妖精の譜歌〜The ABYSS×elfen lied〜
□Episode,4【仮面の襲撃者と敗れた腕】
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軽傷でよかった。
雷撃が掠った腕をさするカマラの火傷を舐めながら兄はそう思った。
(また船に乗るようだな)
「マルクトに行くのかな?」
「ばっか! これからキムラスカのバチカルに行くんだよ!」
「どうして?」
いい加減、砂と暑さに嫌気が差していたルークが髪の毛を掻き毟りながら、自分より無知なカマラに説明しようとした矢先、ひとりのキムラスカ兵が走り寄ってきた。
「こちらにおいででしたか」
見ているだけでも暑苦しいのだ。きっと鎧を纏っている人間も死ぬほど暑いのだろう。
通気性はすこぶる悪いそうな鎧で任務を遂行する兵士も大変だ。
立派な毛皮を纏うライガは近親感から成る同情の眼差しを送る。
「船の準備が整いました。キムラスカ側の港に――」
そこまで言いかけた時、ティアはとっさに叫んでいた。
「危ない!!」
風のように走るそいつは哀れな兵士を吹き飛ばすと、ガイにつかみかかってきたのだ。
その顔――性格には鳥のくちばしの如き仮面には見覚えがあった。
「お前は“烈風シンク”!!」
寸でのところでギリギリ避けたガイはその表紙に書類を手放してしまう。
ばらばらになって注に舞落ちる紙切れ――間違いない。
シンクが狙っているのは音譜盤とその内容を記した書類だ。
「その書類をよこせ!!」
みんなでせかせかと拾い集めるその間、ガイはシンクと対峙する。
身体を大きく捻らせ回し蹴りを二度お見舞いする。
しかし、それはことごとく避けられ留めの踵落としも鞘で受け止められてしまう。
これにはシンクもヤキモキせずにはいられない。
「ちっ!」
あの手を使おうか。
シンクがガイの右肩に赤い印を刻み込んだ。
「な、なんだ!?」
とっさに肩を抑えるガイ。
だが呪詛のような印は肩に吸い込まれるように消えてしまうのだった……。
これは一体?
「ここで諍いを起こしては迷惑です。船へ!」
全ての書類を収集したわけではないが一刻の猶予もない。
船に走り出したルーク達を追うように、ジェイドは未だに書類を拾おうとするカマラの腕を引いて、彼らに続く。
「逃がすか!!」
だがここで奴等を逃がすわけには行かない。
烈風の名に恥じない俊敏な速さで彼らを追い上げる。
「あの人、敵なの!?」
「ええ、敵です。私たちを捕まえて煮て食うつもりなんですよ♪」
「人間を食べちゃうの!? あの子、人間の肉があんまり美味しくないの知らないんだ」
「………………」
無知な娘にあることないことを吹き込もうとしたジェイドの遊戯は
思わぬ少女の発言で幕を閉じた。
同情の哀れみを背後のシンクに送るカマラをジェイドはなんと思ったことか……当人だけが知る。
「ルーク様! 船の出発準備は完了しております!」
「急いで出航しろー!」
「は……?」
きっと兜の中の顔はキョトンと疑問符を浮かべているに違いない。
ルークはキムラスカ兵に向かってさらに叫んだ。
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