「お帰りなさいませーご主人様」
「ご主人様じゃない、桂だ」
「わーメイドさんじゃー。メイドさんが居るー」
金木犀の香る爽やかな秋晴れ。
だがそんなことはお構い無しに、坂本と桂はとある喫茶店、もといメイド喫茶を訪れていた。
「ところでヅラ?何でわしらはこんな所に居るんじゃー?」
「忘れたのか、俺たちは」
バンッ!という効果音と共に、桂は【銀時君おたんじょうびおめでとう!】と書かれたプラカードを取り出した。
「銀時の誕生日を祝うために集まったんだろう」
「おぉー。そうじゃった、そうじゃった!」
「そのために俺がこの密会場所を用意してやったのだ、ありがたく思え」
「すまんすまん。じゃあ早速今回の作戦を考えおぼろろろ!!!」
「坂本ォォオ!?」
目の前で汚いナイアガラの如く口から汚物を吐き出しテーブルの下へと沈んでいく坂本に、桂は思わず駆け寄った。
「いやぁ〜、昨日はちくっと飲み過ぎたきに」
「この馬鹿!あれほど飲み過ぎには気をつけろと言ったではないか!」
「こりゃ完全に二日酔いじゃーアッハッハウプッ!」
ヘラヘラと笑う顔も、どこか青ざめ引きつっている。
「まったく…貴様は何度言っても懲りんな」
「アハハーヅラには昔から怒られてばっかじゃのー」
ピタリ。
水を渡す手が止まった。
「………そのわりに貴様は変わらんがな」
「アハハ〜その通りじゃ〜…あ、もう無理」
すまんがちくっと厠に行ってくるぜよーと言い残し、坂本は席を立った。
その後ろ姿を見送りながら、桂は全く別のことを考えていた。
(昔、か)
いつからか、その言葉がとても遠くに感じるようになった。
それでも、あれからたくさんの時が過ぎて、埋もれてしまったあの日々が、今でも俺たちを繋いでいるというのなら。
(奴の中にも生きているのだろうか)
『俺はあの頃と何も変わっちゃいねー』
変わったことを嘆くのか、変われないことを嘆くのか。
(それは、自分次第だというのに)
カランカラーン━━━…
「お帰りなさいませーご主人様」
近づく足音。
それにすら気付かぬ程、桂は深く考え込んでいた。
そしてその足音は、目標の席の手前で止まる。
「こんな処で密会とは、なかなか洒落ているでござるな」
その言葉に桂はハッと顔を上げた。
「貴様は…!」
「今度拙者達も使わせてもらうことにしよう」
「……河上、万斉」