一年計画

□高誕
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先程まで騒がしかった部屋が一変し、気まずい空気が流れる。















「……嫌な世の中になったものだ」



ポツリ。
少しの沈黙の後、湯呑みに視線を落としたまま桂が呟いた。















「…つーわけだから、今日はもうお開きに「わしは」


背を向ける銀時の言葉を遮って、坂本が口を開いた。
いつになく真剣なその声に、二人は顔を上げてそちらを見る。







「わしは、おんしらの間に何があったのかは知らん。ただわしは、もう失いたくないだけじゃ」








『わしゃもう仲間が死ぬとこは見たくない』














「交えるもんが剣しかないなら交えればええ。そのあと、笑って酒でも酌み交わせばいいぜよ」





仲間なんじゃ、わしらは。


今も昔も。









にんまりと笑う坂本の顔が、やけに眩しく見えた。







『地べた落っこっちまった流れ星でも釣りあげて
もっぺん宙にリリースよ』











「…フッ。まさか此奴に言われるとはな、銀時」



珍しく黙っていた桂が、微かに笑みを溢した。








「どうやら、何もかもが変わってしまったわけではないらしい」









変わってない…か。

そうだな、俺も、俺の護りたいもんはいつだって……



















「…ところで金時、わしの茶はまだかのぉ?」


「……金時じゃねーよ、バカ本」



そんな事を言いながらも、銀時の顔はどこかすっきりしていた。















「それで坂本。俺たちは何をすればよいのだ?」


「おお。今回はのう…」



























++++

うっすらと闇が広がりつつある空。
日が沈むのを見届けた後も、高杉は一人、甲板で煙管を吹かしていた。



吐き出された煙がゆらゆらと空を昇っていく。



(この闇が、俺にはちょうどいい)





眼下に見える江戸の街は、相変わらずネオンの光に包まれ、チカチカと輝いている。

高杉はほんの少しだけ眉を潜めた。








その時、地上で一瞬何かが光り、次の瞬間それが自分に向かって飛んでくる気配を感じた。


ヒュッと風を切る音がして反射的にそれを避けると、弓矢のようなモノがそのまま横を通り過ぎ、後ろの壁に突き刺さる。



(襲撃か?)





もう一度下を見下ろすも、この暗闇では何も見えない。

ましてやこちらは空の上。余程の事がない限り、攻め入られる心配はないはずだ。






もっとも、そんな心配、したこともないが。









ふと目をやれば、矢の先に紙が括り付けられており、高杉はそれを手に取った。





開くと、見覚えのある文字が目に入る。



忘れもしない先日の悲劇。

















 上を見よ











「何だァ…?」


ドンッ!



綴られた文字のままに空を見上げれば、それを見計らったかのように闇に光が瞬いた。












空に咲く華


外の異変に気づいた部下たちが、窓から身を乗り出して騒ぎ始める。


「何ですか今の音は」


「あっ!花火っス」


「風流でござるな」


















(そうか、今日は…)



夜空に浮かぶいくつもの光に目を奪われながら、今日という日を思い出した。




(こんなことをするのは、あいつらしかいない)




一体どういうつもりなのだろうか。



(奴らは一体何を考えている?)






ぼんやりとその場に突っ立っていた高杉は、その手にもう一枚紙があることに気づきそれを広げた。





先程見開かれた左目が、再び大きく開かれる。















「……ッのやろう、」

















 今謝れば許してやるよ
















無意識のうちに力が込められ、それはぐしゃりと音を立てた。


自分が捨ててきたはずの感情が込み上げるのを感じ、目を閉じる。

















「…もう、戻れるわけないだろうが」





誰にともなく呟いた言葉は、ひどく弱々しいものだった。











あいつらの光が眩し過ぎて直視できない。


それなのに、早く戻ってこいと言われているような気がして。
























「俺は、謝らねーよ…」











未練はない。迷いもない。

ただ、壊すだけだ。










獣の呻きは花火の音に掻き消され、闇の中へ沈んでいった。















ヅラ誕に続き高誕でした。
あとがき的なものは日記にて。

ちなみに…
・花火担当→ヅラ
・手紙担当→銀さん(とヅラ)
・弓矢とかその他諸々→坂本

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