短編小説

□花の名前
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「花野アナー!次の仕事、グルメリポートなんだけどお願いできるかな?」


「はーい。大丈夫でーす」


「じゃあよろしくー」






仕事にはハプニングが付き物。
数々の経験から、私はそのことを身を持って学んだ。


でも、まさかまたしてもあの人に会おうとは………



















花の名前

















今日の仕事はグルメリポート。

私は今話題のラーメン屋、[北斗心軒]に来ていた。

















━━━が、




「コクのあるスープにこの細麺がよく合っています」



ズゾゾ〜



「この味付け玉子もなんとも言えませんね」



ズゾゾ〜







イラッ

さっきから聞こえてくるこの音に、私のイライラは限界に達しようとしていた。
















「そして極めつけは…」

ズルズル〜

















プチッ

「あの、すみませんがもう少し静かにしていただけますか?今取材中で…」







アレ?このうざったい長髪は……







「あぁぁぁ!!!」


「む、何事だ?貴様、店内ではもっと静かに…」


「か、桂さん!」






後ろに座っていたのは、狂乱の貴公子の異名を持つ、攘夷志士桂小太郎。




「なんだ。花野アナではないか」


「あ、どうも……」





まさかこんな所で会うなんて。そう言えばこの前インタビューしたのもここだっけ……









「━━━って、何当たり前のように隣に座ってるんですか!!」


「あ、お構い無く」





いつの間にか席を移動した桂さんが、ちゃっかり隣に座っていた。







「む、今日はラーメンの取材か」


「そうですけど…邪魔しないで下さいね」


「オイ、キャメラマン。くれぐれも俺を映すなよ」





人の話を聞けェェー!!!










「奴等に見つかったらゆっくり蕎麦も食えんからな」



そう言って、また蕎麦を啜る。




見つかりたくなかったらこんなトコ来んなよ……



アレ?ていうかラーメン屋に蕎麦?










「……えー、それでは最後に…ってオイィィィ!!??」





気を取り直してリポートを再開すると、なぜかカメラの前で蕎麦を食べている桂さん。








「この店の蕎麦は何と言っても……ハイ、キャメラマンここで蕎麦を映す!」






何がしたいんだこの人ォォォ!!









「ちょっ、桂さん何してんですか!」


「いや、俺も北斗心軒の客として、この店のメインである蕎麦を紹介しておこうと思ってな」


「蕎麦がメインじゃないから!ウチはラーメン屋だよ。蕎麦の紹介したいなら蕎麦屋に行きなっ」






この店の女主人である幾松さんが、桂さんにキツいツッコミを入れた。





















「怒られちゃったぁ〜」


「怒られちゃったぁ〜じゃないですよッ!」





まったくこの人は……
これでホントに攘夷志士なの?

















「…………」


「…………」


「…………」


「……3ぴぃ〜す」


「古ぅぅぅ!!!」







カメラに向かってポーズをとる桂さん。


お前はどこぞの目立ちたがり屋の子供かっ!














でも待って?

確かこれって生放送だから……

















ガッシャーンッ!



「桂ァァァ!!」


「チッ、逃げるぞ花野アナ」


「何で私までェェェ!!??」
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