words


□邂逅
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イタリア男というのはとかく軟派者と思われがちだが、皆が皆女と見れば口説くようなプレイボーイなわけどはなく、俺自身もそういうことに関してはどちらかといえば無関心な方だ。

もちろん若い頃、特に無駄に意気がっていた10代の頃はガールフレンドが切れることはなかったが、それは恋人というよりはむしろ単に夜遊び仲間であったにすぎず、互いの本能に忠実な身体の関係だけであることもしばしばだった。

キャバッローネのボスを継いでからはファミリーのことで頭がいっぱいで、恋人を作る暇などなく、時折結婚のことも考えて特定の相手を見つけてはどうかと助言してくれる部下もいたが、結局仕事に忙殺される日々の中にそんな時間的、精神的余裕を作り出せるほど器用にはなれなかった。

マフィアという仕事柄、しばしばパーティーなどに招かれ、「絶世の美女」と評されるようなご婦人を目にする機会も多かったが、ひとりとして心惹かれた人はいなかった。

そうして、恋人はファミリーだと言ってここ何年かを疾走してきた。実際ここまで、プライベートな事に煩わされることなく仕事に没頭してこられたからこそ、周囲からも認められるほどの成果を上げられたのだと思う。たまの休暇は手持ち無沙汰で結局仕事を始めてしまうが、それも寂しいとか虚しいとかは感じない。仕事兼趣味、それが生活の全てだなんて幸せな男だ。

その俺が。

ひょんなことからボンゴレの次期当主の部下の家庭教師をすることになった。ボンゴレはうちのファミリーも属しているマフィア同盟の中で最大の勢力を誇る大ファミリーだ。次期当主の部下の面倒を見るというのは、キャバッローネにとって有利なパイプ作りにもなる。引き受けておいて損はない。二つ返事で了承し、

そしてその生徒に、恋をした。

一目惚れ、というしかない。

初めて会ったのは、生徒の通う中学の応接室。扉を開けると、彼は上等なソファーにでんと座っていた。東洋人独特の漆黒の髪と切れ長の目が印象的だった。

その目がこちらに向けられた瞬間、身体に電流が走った。射抜くような鋭く刺々しい眼差しに心拍は早くなり、体温が急上昇する。

信じがたかった。まだ中学生の日本人、しかも男に対して、この俺が少女のように胸を高鳴らせているなんて。

しかし俺の恋心とは裏腹に、彼が示したのは剥き出しの闘争心だった。まるで縄張りを守ろうとする猫が毛を逆立てるように威嚇して、そのまま俺に挑みかかってきた。

彼が素人で、まだ中学生であるということを考えれば、その攻撃力は恐ろしいものだった。しかしこちらはプロだ。軽く「撫で」ただけで、彼は四肢の自由を失い、地面に転がるほかなくなった。

それからしばらくは反抗的な言葉を吐き続け、しかも一度は動かせないはずの右腕で攻撃をしかけてきて驚かされたが、その後は諦めたのか単に面倒になったのか、大胆にも俺の前で眠ってしまった。

そして、俺は彼が眠っているのをいいことに、その柔らかい髪を撫でている。

「ボス、ひでぇ顔してるぜ。」

彼を愛でることに全神経を集中させていたら、不意に正面から声をかけられた。俺に同道してきた部下のロマーリオだ。

「ひどいって、どうひどいんだ?」
「スケベ親父みたいな顔してるぜ。」

慌てて堅い表情を作ろうとする俺を見て、ロマーリオはにやりと笑う。

「恭弥に惚れたか。」

さすが俺の部下、いきなり図星を突いてきた。が、指摘されると気恥ずかしい。すぐに否定すればいいのにそれができなくて、ロマーリオには俺の秘めた恋心があっさり見破られてしまった。

「まあいいんじゃねぇか?ボスもそろそろ身を固めればよ。」
「いや、そんなんじゃ…」
「落とすのは大変そうだけどな。頑張れよ、応援してるぜ。」

結局ロマーリオは言いたい放題言い終えると、ひらひらと手を振りながらどこかへ行ってしまった。

校舎を壊さないために、と戦闘の前に移動してきたこの屋上に、彼と二人きりだという事実を認識すると、また心臓がドクドクと激しく脈打つ。いっそこのまま無防備な唇を奪ってしまいたくなる衝動をなんとかやりすごして、穏やかな寝息を立てる彼を静かに見つめることに専念する。

青い空を映すような艶やかな黒髪が、どこか哀愁漂う日本の秋風に揺れる。

その日、俺の生まれて初めての、本当の恋が始まった。







end.
(071026)


あの応接室でディーノは一目惚れしたに違いない!というのは私の願望です。…雪合戦のときにすでに顔合わせてたかもしれませんが(汗


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