Blanches fleur

□葬歌
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「ツイてねえ…」

ラグががっくりと肩を落とす理由。
それは『今日』という日に関係があった。

「俺の誕生日なのに…」
「妖獸にそれが通じると思う?」
「ちぇー、誕生日に託つけてえっちぃことしてやろうと思ってたのにパァかよ」
「微塵切りにしてあげましょうか」
「結構です」

いつも通りの軽口。
いつも通りの笑い声。

ただ一つ違ったのは、空気。


「じゃ、俺あっち片付けるから」
「ええ、気を付けてね」
「お前抱くまで死ねねえよ」
「馬鹿なこと言ってないで早く行きなさい」

分かれてすぐに銃声が響いた。
別れ際の翡翠色の眸が、何故だが脳に焼き付いている。

と、目の前を妖獸の爪が掠めていった。

――惚けてると死にかねない。

ロゼの眸が眇められ、『旋律』が奏でられ始めた。





目につく敵は全て蹴散らした。
あとはラグの方だけ、と振り向いた瞬間






銃声が、止んだ。






身体中の毛が逆立ち、心臓が強く脈を打つ。
最悪の想像が脳裏を掠めた。

それを振り払うように頭を振って、ロゼは走り出した。


――きっと、敵を全て倒したのよ。
ラグは私より強いんだもの。



瓦礫と化した建物。
ハイイロの世界。

大きな妖獸と



地に伏せた小さな影。



ざあ、と血が逆流するような感覚。

リミッターの外れる音。

妖獸が影に手を伸ばす、刹那。



ロゼの体が跳ねる。

「お前が触って良いようなモノじゃない」

細い腕が妖獸の肉に埋まる。
引き抜くと血が溢れだし、彼女の衣服を汚した。
痛みに耐えかねた妖獸の咆哮が鼓膜を震わせる。
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