Blanches fleur

□光は薔薇に恋をする
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壁掛け時計の針が一つに重なったとき、ロゼの部屋にノックの音が響いた。
丁度ベッドに横たわったところだったが、余りに部屋が寒く、どうしてもベッドから出たくなかったので、横着だとは思いながらもその状態でどうぞ、と声を掛けた。

入ってきたのは双子の弟、リヒトだった。

「姉さん、」
「どうしたの」
「一緒に寝てもいい?」
「いいわよ、お出で」

どうせまた怖い夢でも見たのだろうと、理由は特に問い質さなかった。
リヒトの冷えた体がロゼの傍らに滑り込む。
抱き締めてやると、彼はロゼの薄い胸に鼻を埋めた。

「姉さん――いつもの匂いじゃない」
「そう?」
「…男の匂いがする」

リヒトの纏う空気が変わる。
咄嗟に上半身を起こすと、ロゼの腰に回された手に力が籠って、背中に爪が立てられる。
痛みに体を強ばらせると、吸い込まれそうなほど鮮やかな蒼眸が無表情にロゼを見つめていた。

「姉さんは悪い子だ。…この綺麗な顔で、声で、どれだけの男をたぶらかしたの?」
「そんなこと…ッう!」

髪を無遠慮に掴まれ、抗議の声を上げた。

「嘘だよね、姉さん。どうせ何人も雄を喰ったんだろう」
「ひどいわ、私が…数年前にどんな目に合わされたか…知ってるくせにっ…!」
「あは、それで味をしめたかもしれないじゃないか」

ぎりぎりと強く髪を引かれるせいで、是も否もなく上向かせられる。
白い喉にリヒトの舌が這った。

「ぁ、ッく…リヒト、やめなさい…!」
「姉さんは痛くされるのが好きなんだろ?」


こうやってさ、と言うが早いか喉に犬歯が突き立てられた。
びくん、と体が跳ねる。
体の芯が甘やかに疼いた。

「あ、…んんっ…!」
「ほら、そんないやらしい声で雄を誘って…」
「ち、が…」
「違わないよ。…僕はおかしくなりそうなほど姉さんを愛してるのに、姉さんは男なら誰でもいいんだろ?はしたないなぁ…どうせ下はぐちゃぐちゃになってるんでしょ?」

リヒトの手がロゼの下着にかかる。
その瞬間、低い声がリヒトの耳朶を舐めた。

「そこまでだ」

その声はリヒトたちの年代では到底出せない艶と、腰が砕けるほどの色気を含んでいる。
そんな声が出せるのは、一人しかいない。


「ジ、ンにいさ…」
「そんなに気持ち良くなりたいなら、俺がみっちり仕込んでやろうか」

耳元で囁かれただけで息が乱れ、体が火照る。
ぞくぞくとした感覚が脊髄を貫いた。

この人はきっと魔法使いなのだ、とリヒトは思った。



「…俺の部屋に連れていくが、問題はあるか?」
「いいえ、…ありがとう」
「いや。おやすみ」
「おやすみなさい」

ジンは華奢なリヒトを肩に担いで出ていった。
本当に弟の喘ぎ声が聞こえてきたらどうしよう、と何か見当違いなことを考えながら、ロゼはベッドに横たわった。



『愛してるのに』

先程のリヒトの言葉を反芻する。
彼は、泣いていたようだった。
本当に私が好きすぎておかしくなってしまったのだろうか。


生まれてくる前から一緒にいたのに、今は彼の気持ちが見えなかった。




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