◆サプリメント◆

□【1日目】
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この地球上には、俺の理解の範疇を軽く背面飛びしてくださる人間がいるらしい。


「……何これ、馬鹿じゃない?」


古めかしいが手入れが行き届いている馬鹿でかい鉄柵の前で、口を開けたまま立ち尽くした。

かける言葉が見つからない。いや、今は何も言いたくないが正しい心境だ。

生徒指導室の一件を終え、「あんたを閉じ込める檻がいるわね」なんて言って、未知なるコネクションを発揮した母上様の策略で、俺は私立お坊っちゃん学校に投げ入れられた。

しかも、男子校。さらには全寮制。思春期真っ盛りな男子高校生には、悪夢みたいな環境だ。


「憂欝だなぁ……」


ため息を一つ吐いて、これからしばらくお世話になるらしい青嵐学園を見上げた。

最寄りの駅からバスで揺られること十五分。
周りが緑しかない山の麓で降りて、そこから学校まで走る専用バスに乗ってさらに三十分。
空気が薄く夜空が綺麗で、できれば彼女の一人とでも来たかったなぁとしみじみ思う、大自然が溢れる山の中間付近でやっと見つけた大きな建物。

一見、どこかの成金野郎の別荘かと間違えそうな高い鉄柵に囲まれた、これまた趣があって幽霊が住み着いていそうなクラッシックなお屋敷が、運転手のダンディが曰く青嵐学園の校舎らしい。

今日から俺も、そこにある高等部へ仲間入りだ。だがその前に、一つだけ言わせてほしい。

この学校を立てたやつは馬鹿だ。

馬鹿っていうかアホ。

アホっていうか、もはや中身は地球外生命体なのだろう。

送られてきたパンプレットによると、なんとか岳って高名そうな山を丸ごと買い取って造ったこの学園には、初等部、中等部、高等部の三つの校舎があり、その全てが全寮制。
わがままなお坊っちゃまをも唸らせる設備の整った学生寮も、もちろん学園内にあるらしい。

まぁ、ここまでは規模とか、設備とか、警備員の数とかに目をつぶってやれば、そんなに珍しいことでもない。
ミロのヴィーナスさん、考えちゃってる人の像、二宮の金二郎さんなど、装飾品も普通の高校にあるものと一緒だ。

ここまではいい。
問題は、ここからだ。

全寮制。

衣食住の場所は学園で、そこから外出するには許可を取らないといけないらしい。とは言っても、必要なものは通販で取り寄せられるから、それほど不便ではない。
ほんの少しコストがかかるが、この通販は取り寄せられないものはなく、また申し込んだ翌日には配達されるから、不便どころか便利なものである。

だが、そうすることで浮き彫りになる不満。

退屈なのだ、とーっても。

生活区は学園内で、周りにいるのは幼い頃からの知人ばかり。代わり映えのない光景だ。
いくら設備が良いといっても、これでは次から次へと不満がわいてくる。

可愛い生徒の嘆きを耳にし、創立者は考えた。どうすればより良い学園になるか。どうすれば少しは不満を解消できるか。
それはそれ三日三晩、教師職員と会議し思案した、とパンプレットに書いてあったが、とにかく凄く悩んだ結果。

退屈になるんだったら、遊べるところを造ればいいじゃないか。そうすれば、つまらなくないだろう。
そんな最高に馬鹿げた結論にいたったのだ。

そして、造っちゃったものもまた変だった。

お坊っちゃま必須の乗馬コースやゴルフ場。ファミレスとは桁が一つ違う飲食店。一流ブランドの立ち並ぶ商店街。
なぜか存在する映画館や、高貴な方々が行くとは思えないゲームセンター。
パンプレットに乗せたら穴場でも何でもないような気がするが、どうやら秘密のデートスポット、規模の小さい遊園地が、山の反対側でお客さまのご来店をお待ちしているらしい。

もう一度言おう。

この学校を造ったやつは馬鹿だ。馬鹿の権化だ。

そもそも学校というものは、勉学を行う非常に尊い場であり、知的好奇心を満たすところであり、個人の欲求や刹那の快楽に浸る場所ではない。
そう、俺の通っていた公立高校の校長先生も言っていた。

つまり彼からしてみれば、学校内に町やアミューズメントパークが建っているのは邪道。俺からみても、許容範囲外だ。

そんな不思議がいっぱいアドベンチャー学校へ、本日から俺は飛び込まないといけないのだ。

気が滅入るのも無理はない。






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