鋼 長編

□糸 5、真意
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そんな想いが、何になる?




今までずっと、女を道具として扱っていたような気がする。
勝手に媚びて来る女は、便利だった。
使うだけ使って、気分が乗らなければ放り出すだけのこと。




暗くて出口のない長いトンネルをゆっくり歩いていた。
小さな光が灯っていることに気付いたのは、もうすぐ18を向かえる冬のこと。
よく目を凝らさなければ見つけられない、小さな小さな光だった。
今にも消えそうに弱々しくそこにある。
歩けばオレの前へ行き、控えめに足元を照らす。


「兄さん!朝だよー!!」
「…………」
「兄さーん!!」
「…すぐ行く!」


やけに鮮明な夢だった。
起きてまで夢の内容を覚えているのは珍しい。
弟の声で目が覚め、ベッドから降り着替えを始めた。


今日はエンヴィーの後輩と出かける日だ。
女と二人で出かけることなんて初めてだから、どこへ行けばいいのかも何をすればいいのかもわからなかった。
待ち合わせをしている最寄駅に着いてから適当にどこに行きたいのか聞けばいいと途中で考えるのを放棄。
軽く朝食を済ませ、家を出る。
ハイネックのニットにコートを羽織っただけでは少し寒かった。
もう一枚何か着れば良かったと思いながら家に戻るのは面倒なのでそのまま歩き出す。


徒歩で駅に着けば、エンヴィーの後輩はすでにそこに居た。


「…よぉ」
「おはようございます」
「…早くないか?」


駅にある時計を見れば待ち合わせの時間より少し早かった。
万が一遅刻でもしていたら待たせてしまっていただろう。


「そんなことないです。」
「待ち合わせとか…早く来る方?」
「いえ。時間ぴったりに来る方です。でも今日は待たせちゃいけないと思って早めに…」
「…そ」


エンヴィーの後輩はコートの上にマフラーまで巻いてしっかり防寒している。
待たせる時間が短くなったのはいいが、やはり戻ればよかったと後悔。


「今日はどこへ?」
「あー…決めるの面倒だったから考えてないんだ。どっか行きたいとこある?」
「…えっと…じゃあ買い物付き合ってもらえますか?絵の道具買いたいので」
「わかった。」


画材屋へと歩き出したエンヴィーの後輩は、オレより少し前を行く。
道案内もかねているのだろう。
その距離はさっきの夢を思い出させた。


「駅前にあるんです。すぐ近くなので」
「あぁ」


アンティークの小物でも売っていそうな雰囲気の店に辿り着くと、そこへ入る。
店内は画材道具が揃っていて、あいつは比較的小さなキャンパスといくつかの絵の具を選んで手にしている。
大切な宝物を眺めている子どものようで、画材道具に興味のないオレは女ばかり眺めていた。
それに気付いたらどこか気恥ずかしくて目を逸らし、店内に飾られている水彩画へ移す。


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