大河 短編

□手を、繋ごう
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大河が部活のない日。
この時期になるとそれはごく稀で、やっぱりただ一緒に居るだけでも違うんだなと思ってしまう。
忙しいのはもちろんわかっている。
試合がある度に球場まで足を運んで見に行けば、普段練習をどれだけ重ねているのか目に見えるのだ。
私は、ユニフォーム姿の大河が一番好き。


だから、会えないのが寂しいだとかもっと一緒に居たいだとか、我侭は言わない。


でも、本当にたまにしか一緒に帰ることなんて出来ないのだから、並んで歩きたいと思うのは我侭じゃないでしょう。


部活用の大きなカバンを肩で背負って、前を歩く大河は振り返らない。
何故並んで歩いてくれないのかなんて聞いたことはないが、ただ単に歩く歩幅が違うのだろう。
さほど気にするでもなく大河の背中を見つめてみるけれど、小さな溜息が漏れる。


「大河、今度の試合いつ?」
「んー…いつだったっけ。」


大河は試合の日程だとか、その日の練習のメニューを直前まで確認しないらしい。
いつも人任せで、少しだらしがない。
でも、そんなところも愛おしいと思えてしまうのは、きっと末期だ。


大河の短所も好きになったの。
だから、


「手、繋ごう?」
「……」


変わらないテンポでリズムを刻んでいた足はぴたりと止まる。
若干間を置いてからゆっくり振り向いた大河は、不機嫌そうな顔。


道端でキスしてって言ってるわけじゃない。
手を繋ごうと言っただけ。


わかってる。
その表情は、照れ隠し。


「…言うの遅いよ。」


視線を逸らして、大河は手を差し出してきた。


いつも見ているだけで「頑張れ」としか言ってあげられないけれど、同じ歩幅で歩きたい。
大河の全てを理解していたいから。


END


2007/05/02
春瀬琴音

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