冬獅郎 短編

□隔たり
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本来、命が時を刻む場所で針は止まって、この世界の住人となった時。
ここでも「生きている」というのか、ずっと疑問で仕方ない。






【隔たり】






「…………」


ほら。まただ。


時々無償に恋しくなって、気付けば穿界門の前に居る自分。
ここまで来る途中も、きっとあいつのことしか考えていない。
もう病気といってもいいくらいだ。
無意識のうちにでも、足は動くものなのだと悟る。


「…開けろ。」
「ですが日番谷隊長…限定霊印の方が」
「…ちっ」


会いに行ける手段はあるのに、邪魔が入る。
時間を割く手続きをしなければ、この大きな門を通ることは許されない。
いつもそうだった。
くだらない手続きのお陰で俺は正気に戻る。
「あぁ、そうだった」と自分が死神であり、隊長であることを思い出させた。


それと同時にこの門が「お前は死者なのだ」と訴える。
背中を向け、業務に戻ってもそれは常に纏わり付いて離れない。


「人間」ではない「死者」なのに、死神になれる力があったから死神になって、必死に努力をして隊長にまでなって。
生きている人間がするべきことを、ここでもして、ここでも学んでいるのに。
誰かを大切に思ったりすることだって、出来るのに。
この世界でも、ここの住人の命は尽きるのに。
それでも所詮、死んだ人間に変わりはない。


だとしたら、今ここにいる俺は何だ?
「死んでいる」のに「生きている」。
死者が住む世界で「生きている」など、笑い事だ。
生きているなんて言えない。
あいつは、本来生きるべき世界で「生きている」のだから。


「…隊長、限定霊印の申請したんですか?」
「あぁ。」
「現世へ?」
「…他に何があんだよ」
「ないですね。」


受け取った書類に目を通せば、これでやっと会えると心は躍る。
無意識のうちに穿界門へ行ったあとは、必ず頭を冷やした。
それでも会いたくて仕方がないときは、きちんと書類を提出し現世へ向かう。


あいつと連絡を取る術なんて何もないから、いつも驚かせてばかりだけど、それが好きだった。


「冬獅郎!」
「…よぉ」
「久しぶりだね。背伸びた?」
「うるせぇ」


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