過去拍手

□君の一番は僕
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確かに。あいつはオレより大人だし、何より国軍大佐だ。


「少尉。この書類、後は頼む。」
「はい」


異例の出世スピードは頭が良いからだろう。一度戦ってみて解ったが、かなりの頭脳派だ。


「少尉、これを後で第二書庫に戻しておいてくれ」
「はい」


女好きでいい加減なようにも見えるけど、それはあくまでも表面上で実は意志も信念も強い。


「少尉、」
「はい」


が。


「少尉」
「は…」
「大佐。」


いくらなんでもこれは酷い。


「オレの報告書はいつになったら見るわけ?」
「あぁ…忘れていた。後で見るから待っていなさい。…で、少尉」
「はい」


オレが軍に入った時から秘かに想いを寄せている彼女は大佐の部下であり、少尉の地位に居る。
大佐はオレの想いに絶対気付いている。自分で言うのも何だが、顔に出やすいからな。本人は気付いていないようだが。
非番である以外毎日共にいるだろう。
それは大佐にとってかなりのリーチだ。
帰ってきた時くらい彼女にアピールしなくては、オレに勝ち目はない。
…まぁ、勝っているのは若さくらい。


「では第二書庫に行ってきます」
「オレも行く!!」
「あ、おい!!鋼の!!」


彼女と共に扉を出る前に、大佐に向けて舌を出しておいた。
悔しそうな大佐の表情は清々しい。


「エドワードさんも書庫に用ですか?」
「…ん?あぁ、そう」


頭の後ろで腕を組み、特に用も無いのに合わせて返事をしておいた。


「なぁ、大佐の下って大変そうだな」
「…んー…大佐には内緒ですよ?」


彼女はオレを見ながら人差し指を口元に持って行く。


「正直、毎日お相手するのは疲れるんです。」


冗談めいた口調で話す彼女はとても可愛らしい。
小さな仕草にもオレの心臓は跳ねてしまう。
そんな顔を、毎日でも見ることが出来る大佐が羨ましい。


「でも、とても尊敬出来る方です。」
「…そっか」


大佐への感情をオレに話したのを後悔している訳ではないだろうが、フォローも上手い。
自分の上司を誇らしげに思う彼女は凛として、逞しかった。
それと同時に激しい嫉妬がオレを渦巻く。


「…今回の旅はどうでしたか?」
「さっき大佐に話したの聞いてなかった?また収穫なしだよ」
「いえ、そうではなくて…」


ぐるぐると嫌な感覚に襲われて、それでもいくらか落ち着いていられるのは彼女が隣に居るからだ。


「え?」
「エドワードさんの目的とは違くても、何か得られるものはあったでしょう?」
「………そうだな……うん。そうかも。」
「でも次は、少しでも近づけるといいですね。」


透き通るような声。歩く度に揺れる髪。整った身体。
いつも新しいことを教えてくれて、いつも励ましてくれる。
全て、オレのものにしたい。
オレだけのものにしたい。






書庫には誰も居なかった。
二人きりの空間にオレは少し緊張する。


「えーっと…」


手にしている文献と本棚を交互に見て、戻すべき場所を探している。


もしかしたら、もう大佐とは何度か二人で出掛けたこともあるかもしれない。
あの大佐のことだ。気に入った者には手が早いだろう。
でも、二人を見る限り深い関係ではない。


今なら間に合う。
いや、今はチャンスだ。
今しかない。


「あのさ…」


文献を戻す場所が見付かったようで、背伸びをしながら戻した。
元の位置に戻ると、彼女自身も本来の背丈になってオレに顔を向ける。


「…どうかしましたか?」


ちょっとした気遣いもとても上手くて、彼女からは学ぶことがたくさんある。
人間として、尊敬出来る人だ。
こんなに誰かを大切に思うことが出来るなんて、自分でも気付かなかった。


「オレ…少尉が好きなんだ」
「…え?」
「好きなんだ!大佐なんかに渡したくない!!大佐みたいにいつも傍に居られるわけじゃないけど…オレは…!!」
「………」


彼女の表情はとても驚いている。けれどその瞳は真っ直ぐオレに向けられて。


「…好きなんだ。少尉の、一番になりたい。」
「………」


何も言わず歩き出し、オレとの距離を縮める。
目の前まで来ると柔らかく笑って口を開いた。


「私の一番は、ずっとエドワードさんです。」
「……え?」
「今までずっと。きっと、これからも」


ゆっくりと紡がれる言葉は、まるで春に吹く心地の良い風のようにオレの心に吹く。
抱き締め合った互いの体温は全身に広がり、安堵すると共に今まであった大佐への対抗心は消え失せていった。




END


配布元⇒アコオール≫オーエス
君の一番は僕
実はヒロイン、エドよりちょっと年上設定だったり。
2006/12/29
春瀬琴音


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