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□隠したいもの【過去】
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「ねえ、アンタの昔の話してよ」


「はい?」


それは僕の想い人である彼女からの唐突で、重い問いかけだった。


「いきなり口を開けばそれかい?
 なんだい、僕の過去がそんなに知りたければ教えてあげても、まあいいが?」


嘲笑うような表情を無理矢理に貼り付ける。

その仮面の下には、今にも崩れてしまいそうな己。

嘘なんだ。

教えてほしいなんて言われたって、

教えない。

教えれない。

教えてくない。


「いいからっ!教えてよ!」

アンタは何にも昔の話してくれないじゃない、と彼女は付け足す。


「何で教えなくちゃならないんだい?」

何もしらない彼女の、その、顔。

愛おしくて、愛おしくて、愛しくて愛しくて。

だから、君には教えれない。


「なんでそんな強情はるのよー。
 女には教えられない恋がらみの過去とか?」


強張る顔と、少し見開く目。

きみの言葉でたやすく仮面ははずれ、音をたてて砕ける。

それでも僕は精一杯、強がって、弱々しく微笑む。

言の葉には、欠けてしまった仮面をかぶせて。

「違うよ、きみには教えられない……教えたくない醜い過去さ」












愛おしさのあまり狂った僕が、

愛しい人の眼に映るのが恐ろしいんだ。




愛おしくて、愛しくて





だから隠したい。






僕の


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