日和
□短編集
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1月7日 七草の日
「人日の節句」とも呼ぶ。人日とは文字通り「人の日」。「人を殺さない日」という意味がある。
七草自体は春と秋のものがあるが、この日は春の七草を味わう。
時代と地方によって異なるが、主に以下のものを粥に入れ、無病息災を願う。
「芹 なずな
御行 はこべら
仏座
すずな すずしろ
これぞ七種(ななくさ)」
(作者未詳)
…という蘊蓄はさておき、
現在弟子の目の前では、その七草の粥が煮込まれている。
あとは塩を足せば完成だ。
[弟子の優しさ]
「わーい!曽良君の手料理だ!」
「芭蕉さんに食べさせるとは言ってませんよ」
「やっぱりね!ちくしょー食いしん坊め!」
「まあ僕一人じゃ食べきれないんで、一杯くらいなら食べて良いですよ。味は僕好みですが」
「…そうだよね、うちの台所使っといて何もくれないとかないよね!わーいわーい、いただきまーす!」
寒い中突然やって来たと思ったら、いきなり台所で料理を始めた曽良君。
料理をすること自体はときどきあるからそれは気にしてないけど、家主に一言も言わずに始めちゃうのは、曽良君らしいというか何というか。
私の目の前には綺麗な緑色が入ったお粥。
七草粥を食べるのは、おせち料理や餅でもたれた胃腸を休めるためでもあるらしい。
それならこのお粥は、作った人から食べさせる人への優しさそのものかもしれない。
…ちょっと言い過ぎかな?
「曽良君、薄味が好きなの?去年もこんな味だったような…」
「このくらいの方が身体に優しいでしょう」
「うん…そうだね!」
今日は人を殺さない日。
弟子が私に優しい日。
end.
→後書き