日和
□アゲハ蝶と銀杏の葉
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たったひとひらの
言の葉に込めた意味
彼が知ることは、きっとないのだろう
『アゲハ蝶-b』
旅の途中だったか、彼に尋ねられた
―どこまで行くつもりか?
―いつまで旅を続けるのか?
「目的地忘れちゃったの?」と聞いたら「そんなわけないでしょう、あんたじゃあるまいし」と言われたのは置いておいて、
ちょっと真面目に考えてこう答えた
―終わりなんてないよ
(旅を終わるのは、人生が終わるとき)
―終わらせることは、出来るけどね
(出来なくはないけど、まだこのままで)
(しばらくは、このまま二人で。)
荒野にポツリとあった宿
そこで私はアゲハを見たんだ
夏の夜 月の下
かすかな灯りに揺らめいて
ヒラリヒラリと舞い遊ぶ。
君は寝てたんだよね?
残念だなぁ、奇麗だったのに
そう言ったら君は少しムスッとして「寝呆けてたんじゃないんですか」なんて言ったっけ。
たしかそのあと私は言った
―もし私が蝶だったら、君は蜘蛛か何かだろうね。鬼弟子だから、鬼蜘蛛だ!
何となく言ったことだけど、今から思えば恐ろしいものだ。
たったひとひらの言の葉に込めた意味を、分かってなかったのはお互い様かもしれない。
ねえ、曽良君。ただ、私はあのとき
もしなれるのならアゲハになりたい、なんて思ったんだ
私が見た景色を、君に見せたかったから
それだけなんだよ。
―生まれ変わっても囚われるなんて、思ってもなかったよ
『馬鹿なことやってると置いていきますよ、芭蕉さん』
短い命ではあるけれど、
―しばらくは、このまま二人で。
end.
→後書き