■デジモン小噺

□「君の聖戦」ヒカ太
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例えば、の話なんて聞きたくないわ。

離れてしまったら。
恋人ができたら。
結婚したら。

そんなことばかりを、どうして考えてしまうの。

寂しくなるなぁ。
楽しみだな。
幸せを祈るよ。


それこそ嘘でも答えにできないわ。



生きていられない。
絶対に認めない。
いっそ、殺してしまいたい。


この答えは、間違ってない。



蒸し暑い熱気を遮断した涼しいリビングの中、私はもう一時間はソファーに寝そべっている。


手の中には、フレームに収められた一枚の写真。

見知った二つの顔が、満面の笑顔で並んでいる。


「ヒカリー、太一知らなぁい?」

お昼間のリビングに、間延びしたお母さんの声。
片手には、シンプルな包装の四角い箱。


「…せっかく買ってきたのに」


ふわりと甘い匂いが鼻を掠めて身を起こすと、よくねだったことのあるかわいらしいカップケーキが3つ。

先に食べちゃおうか。
二児の母とは思えない無邪気な笑みが私に向けられた。


今頃。


今頃、お兄ちゃんとあの人は、お似合いのファミレスとかで時間を共有してるのでしょう。

気持ちとは裏腹な甘い味を咥内に広げながら、写真をなぞる。


「空ちゃん、ずいぶん可愛いくなっちゃって。」


私の睨めっこしていた写真を取り上げて、母は柔らかな表情をその子に向ける。

「明るくて元気で、太一とよく走りまわってたのよ。」

在りし日の幼いはしゃぎ声は、
母からすれば遠くない過去の二人の姿。



「お母さん、太一にぴったりだと思うのよね」


その瞳には、寄り添う二人でも見えているのか。
細められた目元がトロリと夢心地。

大人しくて病気がちで、外で遊ぶことなんて数える程だった私と対象的な空さん。


「向こうの世界でも、きっと面倒見てくれてたはずよ。」


ふふふ、と穏やかに零される微笑みがうざったい。

彼女がお兄ちゃんに何をしてくれたっていうの。
今の彼女の、どこがお兄ちゃんにお似合いだなんて思えるのよ。

さも当たり前だというふうに隣を陣取って、安穏と笑いを零している、そこは私の場所だったのに。


あぁ、早く身の程を知ればいいわ。


大好きなカップケーキを乱暴に口に放り込んで、決戦にむかえて闘志を燃やす。


写真の中の彼女に向けて、私にできる1番歪んだ顔をして、アッカンベーを2回した。


例えば、なんて起こさせない。
絶対よ。





*オワリ*

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