■デジモン小噺

□[忘れられた君に]太一
1ページ/5ページ





みんな大人の顔をして、アレは思い出なんだと笑ってしまえる。








[忘れられた君に]







−わかってた。

哀しいとか苦しいとかって自分のことは。
痛かったけどそのまま気付かないフリをして、強くなりたいって思っ
てた。
子供だからなんて言い訳が要らないぐらいの、みんなが怖い思いしないぐらいの強さ
を望んだ。
それは別に、誰かに頼まれた訳じゃあなかったけど。

その強さで、あの夏俺は、自分をつくりあげた。


本当は。


本当は足なんかガクガク震えてたことがある。
本当は逃げ出して、何も考えず苦しまずにいたくもなった。

けど。


俺の前には誰もいなかったから、誰も先に進まなかったから。

あの冒険の、あの時から。


正しくても間違えでも、そんなことは関係なく。
俺は振り返ることができなくなった。




おまえら一体、俺の何を信じてるんだ?





「お兄ちゃん」


どうしたの、ってヒカリが笑う。きっちり前髪をピンで留めた姿は、3年前とは違った
しっかりしたお姉さんだ。

「遅かったな」


その頭をポンポン叩いて、今まで沈み込んでいたソファーから身体を引き上げた。
ヒカリは子供扱いされたことに
頬っぺたをプクっと膨らませてから、
向かいのソファーに腰掛けチャンネルを回す。
その姿をボーッと目に写す。

この所デジタルワールドに通い詰めのヒカリは、疲れているせいか家に居ても口数が少な
い。


何か手伝えることはないかと言ったところで、今の俺じゃあ足手まといが関の山だ。

アグモンは進化できねぇし、俺がでばり過ぎたんじゃ、今の選ばれし子供の結束力を
削いでしまうだろう。

勇気の紋章も、大輔がきっちり受け取ってくれた。
そして友情の紋章も…。

友情。この言葉を耳にする時は必ず、ダークトーンの金髪のあいつが瞼に浮かぶ。
よく殴りかかってきてたよなぁ。すげぇ恰好付
けのくせに、涙脆くて寂しがりで。

周りを見ろって怒鳴られた時はビックリしたよなぁ。
怒鳴りながら、震える声で掴みかかってきてさ。

そんなあいつが、なぁ。






次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ