■デジモン小噺
□[君の考えること]エン+タケル
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久しぶりに見た君の姿は、この瞳に焼き付けたはずのものとは随分掛け離れていた。
小さくて、触れれば折れてしまいそうだった身体は、不思議な程手足がスルリと伸びてい
る。
これなら、太一の背丈にだって負けないくらいだろう。
「エンジェモン?」
そして何より変わったのが、この声だ。
どこか砂糖のように甘やかだった少年の声は、今や
自我をはっきりさせた青年のものとなっている。
そんな君への動揺が、バレてやいまいかと息を飲んだ。
大きくなったね、タケル。
[君の考えること]
−−−アハハハハ!
マッチ箱のような小さな部屋に、軽快な笑い声が響く。
「今日普通に進化できたでしょ?だからこっちの世界ならもしかして…ってさ」
昔なら戦闘以外で進化するなんて有り得なかったのだが、現実世界とデジタルワールドを
行き来できる今は、人目さえ気にすれば少々進化しても構わないし。
ダークタワーのないこっちの世界なら、エンジェモンに会えると思ったんだよ。
と、はにかみながら言った君。
その笑顔すら、前に見たものとどこかが違う。
屈託なく振り撒かれる笑い声が、無理をして造られているように感じられる。
そんな君を見たくなくて、別段気の利いた事の言えない私は、タケルの変化についての疑
問を少しずつ重ねるぐらいしかできなかった。
「「成長」したら、名前は変わるのか?」
−−変わらないよ?タケルのまんま!
「そうか…技はだせるようになったのか?属性は?」
おかしな事を言ったつもりはなかったが、
堪えられなくなったらしい君は、本当に面白そうに笑いだした。
上辺だけでない、子供らしい笑い方。自分が笑われているのは分かるが、声をたてて笑う
姿に、やっとタケルに会えたのだと不愉快な気はしなかった。
「それで、タケルはいつ退化するんだ?」
何度か区切りをつけて私に向き直ろうと試みていた君は再度吹きだした。
私はてっきり、時間が経ったり腹が空けば、タケルはまた幼くなるのだとばかり思ってい
たのだ。
「僕は僕のまま、昔になんて戻らないんだよ!」
ゴメンね、と付け加えながら説明するタケルの口元はクスクスと変に歪んでいる。
さっぱり理解できないのだが、
こっちの世界の生き物は、植物のように時間を掛けて成長する。私が別れてから、小さ
かったタケルが見違える程に「成長」する十分な時間がこちらでは流れたらしかった。
そうゆうことなのだそうだ。
*