PKSP
□愛し君へ7
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誰にも傷ついて欲しくないよ――。
トキワシティのある病院。その一室の前で、レッドは立ち止まった。一度深呼吸をし、ノックする。
「どうぞ。」
その声に導かれるように、ドアを開ける。コツコツと足音が響いた。
ベッドに座る男を、半ば睨みつけるように見つめる。肩に乗っているピカが威嚇し、パリパリと小さな音がなった。
「サカキ、」
レッドは男の名を呼んだ。
サカキ。元トキワジムジムリーダーにしてロケット団首領。自分が潰した組織のボスに、取引を仕掛けるなんて、茶番もいいとこだな。
ピカを片手で制しながらそう思う。
「知りたいことは誘拐事件のことか?」
急に話しかけられ、レッドは戸惑った。
「う、うん・・・。」
「その事件なら、私は関わっていないぞ。情報、といっても、今の私よりは、お前の方が詳しいのではないのか?」
「ちょ、ちょっと待って!」
思わずサカキの言葉を止めた。取引するんじゃないのかよ!?何でそんなにあっさり話し出すんだ!?
混乱しているレッドを見て、サカキは薄く笑う。その笑みが優しげなもので、レッドは余計に戸惑った。
「取引も何も、私はお前に匿われているのだから、対等な立場ではないだろう?」
確かにレッドがサカキをこの病院に入院させたのだし、結果的には警察の手から逃れている。しかし、レッドはそのことで恩を売る気などさらさらない。
困らせてしまったか。予想外の展開にすっかり黙ってしまったレッドを見つめ、サカキは思う。
しかし、本当に真っ直ぐで不器用な子どもだ。取引、だなどとまだるっこしいことは言わず、無理やり聞き出せばいいものを。
レッドがサカキを匿っていることを、彼の仲間は知っているのだろうか。本来曲がったことを嫌うこの少年が自分を庇うのは、ひとえにシルバーのためを思ってだろう。
どんな親だって、いてくれた方が嬉しいよ。
サカキをここに連れてきた日、何故かと尋ねると彼はそう呟いた。だから、もう真っ当に生きろよ、と、レッドはそう言って、笑ってみせた。
サカキがレッドの要求を呑んだのは、別に借りがあるからではない。我が子との残り少ない時間を守ってくれていることへの、礼のつもりだった。