Treasure

□ネガイゴト
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最近。
たまに、思い出すことがある。
それはいつも不安定で不確かな、掴んだと思ったら消えているような類いのものなのだけれど。


ふう、とため息をついて焚き火の火を見つめる。
柄にもなく陰に入っているらしい。
ゆらゆらと不規則に揺れるそれを見つめていると、ふいに後ろから「ジタン」と声をかけられた。
聞き慣れた仲間の声に、振り向かないまま応じる。

「バッツか」
「よう。どうしたんだよ、こんな夜中に」
「どうしたもなにも、今夜の見張り当番俺だろ」


そういやそうだっけな、と笑いながらバッツは俺の隣に座った。
お前こそどうした――とは聞かない。
ただ黙って目の前の炎を見つめる。

何となく、わかっていたから。
もっともそれは、お互い様だったのだろうけれど。


しばらく二人とも何も言わなかった。
何かを考えていたのかもしれないし、あるいはただぼーっと時を過ごしていただけだったのかもしれない。
やがて、バッツが呟くように言った。


「明日……いや、もう今日か。何の日か知ってるか?」
「何の日……?」


唐突にバッツから発せられた問いに、思わず俺は首をひねった。
何かあったっけかな。
首をひねったまま問うように目を向けると、バッツは炎をじって見つめたまま言った。


「クラウドから聞いたんだけどな、寝る前。
なんでも、七夕……とかいうらしい。」
「たな……ばた?」

聞いたことがない。
再び首をひねっていると、バッツがまた話を続けた。

「俺もなんのことかさっぱりでさ、聞いてみたんだよ、七夕って何だよって。
そしたら、クラウドが言うには、

『俺もあまり詳しいわけじゃないが……なんでも、約束を破ったせいで神様に離ればなれにさせられた織姫と彦星が、一年で唯一会える日……なんだそうだ』

って。
クラウドの……元いた世界にあった、風習らしい」
「クラウドの……」


バッツの言葉に、再び俺は沈黙する。
七夕。
聞き覚えがないから、多分俺の世界にはなかったんだろう。


パチパチという火花の爆ぜる音だけがやけに大きく響く。

元いた世界。
元いた居場所。
日だまりの、ような。



気がついたら、呟いていた。
うめくような、祈るような声で。


「……あいつら、元気にしてんのかな」


最近、たまに思い出す。
不安定で不確かなそれは、しかし確かに、俺が元いたはずの世界について――
もっと詳しく言うならば、その世界においてきてしまった仲間たちとの日々の記憶だった。


「……どうなんだろな、ほんとにさ」
「………………」


懐かしむように呟いたバッツは、ばたっと寝転がって夜空を見上げた。

俺もつられて見上げる。
知っている星が一つもない夜空。



元気で……やっているのだろうか。
何事もなく、平穏に。



しばらくそうやって流れる雲と星を眺めていると、突然バッツがあ、と言って起き上がった。


「どうしたんだ?」
「いやさ、ほら、さっきの七夕っての。あれ、クラウドが言うには願い事が叶う日でもあるって」
「願い事……」
「その織姫様と彦星様とやらに願うんだってさ」


願い事。
俺が今願うことは。


「ほら、クラウドに教わって願い事しに行こうぜ!」
「おわ、ちょ、バッツ?」


いきなり手をとられて走り出す。

いいけどクラウドもう寝てんじゃねえのか?

歩幅の違いに途中こけそうになりながら、ひそかに願った。


――聞こえてるかわかんねえけどさ。


あー、やっぱレディに願うってのはあれだから、彦星限定な。



叶うなら。


真実を知ったときにも決して離れずにいてくれた昔の仲間たち
れずにいてくれた昔の仲間たちと、それから――


こうやって、さりげなく労ってくれる今の仲間たちに。





願わくは、幸せと平穏が訪れますように――……


End...

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