PKSP3
□愛し君へ38
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本当に、やりきれない。
晴れた視界に映る光景に、驚愕するしかなかった。
「な・・・・・何で・・・・?」
男の腕に深々と突き刺さる、牙。
「見えない、のに、食べる、された?」
まるで咀嚼するかのように蠢く口元に、血の気が引く。
ソレの死角にいたドトウは、それなりに離れていた筈だ。盲目の生き物が、偶然近付き、偶然噛み付くなど、有り得るのだろうか。
「ひぎぃぃぃ!!た、助け・・・・っ!!」
「馬鹿!無茶に腕動かすな!」
痛みと恐怖に混乱したのか、男は滅茶苦茶に暴れ、ソレから逃れようとしている。ソレは無論逃がす気はなく、傷口が裂けたに過ぎなかった。
「あれ以上傷開いたら、マズイよ・・・・」
レッドの眉間に皺が寄る。手にしたままのボールからピカチュウを出すと、頭を撫でながら再度ソレに視線を戻した。
「何とか引き剥がすしかないね・・・・・・」
「攻撃?」
グリーンの表情は暗い。傷付けることに抵抗があるのだろう。かといって、あのまま放っておけるほど、二人は非情にはなれなかった。
「捕まえる、できるの?」
「・・・・多分」
ただ標的を変えるだけでは、その場凌ぎにもならないだろう。できれば捕獲、最低でも麻痺か眠り状態にはしたい。
「やるしかないか・・・・・ピカ!」
「リザードン!」
強烈な電撃と灼熱の炎を受け、生き物が耳障りな悲鳴を上げる。そのままゆっくりと倒れた生き物の口から、レッドは男を無理やり引っ張り出した。その衝撃でさらに肉が裂けたらしい。赤い血が床に滴った。
「毒を注入されたっぽいね・・・・・」
見る見るうちに青黒くなっていく腕に、レッドが眉を顰める。このまま放っておけば、出血多量の前に毒が回って死ぬだろう。
レッドが一度、深呼吸した。男の懐からナイフを探り当てると、噛まれた腕を両膝で押さえつけ、傷口を抉る。
「ぎぃああああああ!!」
レッドの予想外の行動に固まっていたグリーンが、その悲惨な声で我に返った。
「レッド!」
「何?今、忙しいんだけど!」
非難するつもりで上げた声を逆に咎められ、グリーンは困惑した。傷つけたいという訳ではないことは解るが、彼の意図が量りきれない。
レッドは淡々と傷を拡げ、血を流させると、グリーンのポーチを引っ手繰り、消毒液を乱暴にかけた。痛みに引っ切り無しに喚き暴れる男に苛立ちながらも、てきぱきと作業を進めていく。
「それ、正解・・・?」
「さあ?」
暴れる男を無理やりに押さえつけ、腕を縛りつける。痛みで半ば意識を失っている男に冷たい一瞥をくれてやり、レッドは立ち上がった。
「一応毒は粗方抜いた。ただでさえ深い傷を抉っちゃった訳だから、早く診てもらわないと壊死するかもだけど、そんなのはオレの知ったこっちゃない」
口調は冷たく淡々としてはいるが、顔色は青褪め、腕が微かに震えている。思わずグリーンは彼に手を伸ばした。元々血があまり得意でないレッドには、かなり辛かっただろうに。
「さて、と。」
ビクビクと痙攣を繰り返す生き物は、随分と弱っているように見える。ぐ、とグリーンの眉が寄る。
「この子、どう、する?」
「それなんだけどさ、実はちょこっと暴れてた間にイイモノ見つけたんだ」
一フロアを微塵の容赦もなく破壊しつくしたことを『ちょこっと暴れた』と形容していいものか。レッドと交戦していた者がもし此の場にいれば、総ツッコミが入っただろう。
それはさておき、レッドが取り出したのはモンスターボールだった。しかし、市販のものとは少し違う。上部には妙な機械が取り付けられており、色も赤と白、というよりは、朱色と透明に近い。
「どうもね、コレ、あのコたち用のっぽいんだよ。」
ボールが孤を描き、生き物に当たる。
「絶対大丈夫かは、解んないけど、さ。」
レッドがボールの淵を優しく撫でる。
「おやすみ。」