PKSP3

□現し世の世界1
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春の天気は変わりやすい。昼頃には青空が広がっていたにも関わらず、徐々に黒い雲に侵食されつつある様を見つめ、少年は嘆息した。無意識に、蛇の目を持つ手に力を込める。



嵐になる、と少年の主は宣言していた。実を言えば、主は雨が降ろうが槍が降ろうが、その身に被害が及ぶ筈もないのだが、まあ、一応眷属として、傘の一つも用意しない訳にはいくまい。そう考え、蛇の目を片手に捜し回っているのだが、今日に限って、一向に見つからない。



彼の人の眷属になり、まだ百年程。高度な術なんぞ使える筈もなく、元人間だったことが祟ってか、少年には、主の気配も妖の気配も希薄すぎて、感じ取ることができない。



ついでに言うと、先輩眷属である兎も見つからないのだが・・・・・・彼女がふらふらしているのは、何時ものことである。




「シルバーさん!」

「何しとっと?」



ふいに響いた童子の声に、少年、シルバーは足を止めた。近くの木の枝から、二匹の猫又が此方を見下ろしている。木から飛び降りようとする二匹を制し、問いかけた。



「レッド様を捜しているんだが・・・・。お前たち、御見かけしなかったか?」

「さっき、大きな桜の木で御会いしましたよ?」


「嵐が来るけん、うちへ帰れば言われたと」



紅の瞳を持つ猫又が、小首を傾げながら答える。藍の瞳がそれに続いた。




「サファイア!『言われた』じゃなくて、『仰った』だよ!レッド様にそんな無礼なこと言っちゃ駄目じゃないか!」

「うぅぅ・・・・。レッド様は、そげな細かかこと、怒らんね!」

「だから、『怒らない』じゃなくて、『お怒りにならない』だってば!また大人に怒られるよ!?」



木の上でぎゃあぎゃあと喧嘩を始めた猫又達に、シルバーは苦笑した。確かに主は、幼子の言葉遣いにいちいち目くじらを立てたりはしない。しないが、大人の猫又達が畏れ多い、と震え上がっているのも事実である。



「助かった。嵐が近いんだろう?喧嘩は止めて、気をつけて帰れ」



はぁい、と元気のよい返事を返し、猫又達は木から木へと飛び移っていった。あの分なら、雨が降る前に猫又の群れへと帰れるだろう。



「大きな桜の木、か・・・・・」



方向からして、山の頂上付近の大木のことだろう。あそこは初めに見たと思うのだが・・・・・捜し回っている間に、移動したのかもしれない。




「・・・・!拙いな、本格的に崩れ始めた・・・・」



このままでは間に合わない。シルバーは下駄を脱ぎ、懐に抱えると、一目散に走り始めた。



今度、何を置いても瞬時に移動できる術を教えてもらおうと、堅く決意しながら。
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