PKSP3
□心地よく吹かれた昼下がり
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ふと、落ちていた意識が戻る。
「・・・・・?」
状況がうまく呑みこめず、レッドはぱちぱちと瞬いた。寝起きであるため、思考もうまく働かない。まるで靄がかかっているかのようだった。
「えっと・・・・・ココ、何処だっけ・・・・?」
幼い仕種で目を擦りながら、ぐるりと部屋を見回す。そうこうしている間に頭も冴えてきた。『何処』も何も、此処には何度も、それこそ数え切れないほどきたことのある場所だ。
「そういえば、グリーン家(ち)に遊びに来てたんだっけ」
疲れが溜まっている自覚はあったが、折角だし、と誘われるまま尋ねたことをレッドは後悔した。来て、割とすぐに眠ってしまったような気がする。
「他人ん家(ヒトんち)来てすぐ寝オチって、何だよそれ・・・・・しかもベッド・・・・」
地味にショックを受けるレッドの横で、ピカチュウが大欠伸をしている。どうやら起こしてしまったらしい。生憎、今のレッドにはそこまで気が回らないが。
「あ、レッド、起きた?」
一人悶々としていると、ガチャリ、とドアが開く。次いで盆を持って入ってきた部屋の主は、ニコリと笑い、続けた。
「よく、眠れた?」
・・・・・・悪気はないのだろう、うん。ただ自分がちょっぴりネガティブになっているだけだ。
しかし、今の今までグリーンを放って眠りこけてしまったことを気にしていた身としては、何というか、答えにくい。
もそもそと、レッドは布団の上で正座する。盆をローテーブルに置き、不思議そうに覗き込むグリーンから、少しだけ視線を逸らした。
「あの・・・・・寝ちゃって、ごめん・・・・」
「レッドって、たまに、(妙なところが律儀で)変、いたっ!」
「このタイミングでそういうこと言うかあぁぁ!!」
思わずグリーンの頭をはたく。なんとなく声にならなかった部分も理解できるが、腹が立つものは腹が立つ。主人の怒り(と、その内容のしょうもなさ)を感じ取ったらしいピカチュウが、彼の足を小さな前足でぺちぺちと叩いている。
「叩く、程、怒った?」
「や、何ていうか・・・・ノリ?」
ひどい、と呟く声に、レッドもやり過ぎたかな、と少しだけ反省した。まだ寝惚けていたのかもしれない。
別にそれ程怒っていた訳でもなく、グリーンは軽く首を傾げると、マグカップに口をつけた。レッドもそれに倣う。途端、形のよい眉が顰められた。
「渋い・・・・ていうか、マズ・・・・」
「う〜ん・・・・失敗?」
ティーバックも難しい、と笑うグリーンに、思わず嘆息する。沸かした湯を注ぐだけの代物で、何故こんなに失敗するのか、此方が訊きたい。
「下、キッチン借りていい?」
「淹れ直し、してくれるの?」
流石に『失礼だ』と気を悪くするかと思ったが、杞憂だったらしい。相変わらず、グリーンは笑っている。
「流石に、ねぇ・・・・。紅茶でいいの?お茶葉はある?」
「ない、と思う」
「じゃ、珈琲でもいいかな」
勝手知ったる何とやらで、レッドは迷うことなく階下へと向かう。残されたピカチュウが後を追うのを見て、グリーンはくすりと笑った。