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□雷鳴
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雨が、降っている。雷鳴の伴わない雨は、けたたましい音を立てているにも関わらず、まるで世界から切り離されたかのような、奇妙な静寂を感じさせた。



クラウドは、窓の外をちらりと見遣り、瞳を伏せた。とうに仲間は寝静まり、聴こえるのはただ、雨音と、頭に響く鳴咽のみ。



(一体、何がそんなにも哀しい?)



溢れる涙もそのままに、クラウドは己に−−−−正しくは、己の内に潜む『彼』に−−−−問い掛けた。その間も涙は止まることなく、頬を伝い、顎を濡らし、シーツに小さな染みを作る。



−−−−哀しいんじゃない。哀しいだけじゃ、ない−−−−



鳴咽混じりに『彼』が言う。『彼』とクラウドの感情は共有されている。『彼』の涙の理由が、そんなに単純ではないことも、実は気付いている。



クラウドは苛立たしげに眉を潜めた。降り注ぐ雨、血の色、誰かの咆哮。自分の知らない、しかし心を騒がせる映像。



俺は知らない。こんな情景、見たことがない。



そう思う反面、どうも落ち着かない。一体、あの場で何が起こったのか。



未だ泣き止む気配のない『彼』に、クラウドは舌打ちでもしてやりたい気分だった。時に進むべき道を助言し、時に自分を諌めようとする『彼』は、今はまるで幼い子どものようだ。さらに困ったことに、『彼』の精神とクラウドの体調はシンクロするらしく、『彼』が塞ぎ込むと、耐えかねる程の酷い頭痛に襲われるのだ。



(アンタ、何を見たんだ?)

−−−−まだ、教えられない−−−−

(またそれか)



教えられない、まだ知るべきではない、時期が来れば自ずから解る。



『彼』のよく言う言葉だ。ミッドガルでティファと再会してから現れた『彼』は、クラウドの失った記憶を、おそらく総て持っている。クラウドには、それがたまらなく不快だった。



(まあいい。好きなだけ泣けばいいさ。どうせアンタは、泣き疲れて眠るだけだから)



辛辣なクラウドの言葉に、『彼』は反応を示さなかった。結局、泣き過ぎて瞳が腫れるのも、寝不足になるのも、身体を支配するクラウド自身なのだ。



−−−−アンタは、強いね−−−−



ややして、ぽつりと『彼』が呟いた。もう眠ってしまったかと思っていたクラウドは、些か驚いた。



(当たり前だ。弱ければ、こんな旅は続けられない。)

−−−−そうだな。・・・・・でも、何時かは−−−−



何かを決意したような声の後、『彼』の声は聴こえなくなった。今度こそ、泣き疲れて眠ったらしい。



「・・・・・やれやれ。」



クラウドは、思わず声に出して呟いた。今日の相部屋はヴィンセントだ。泣いていたことは、おそらく知られているだろう。まあ、いい。わざわざ言い触らすような男ではない。



−−−−皮肉だね。アンタは、セフィロスを恐れない。俺よりずっと心は強いのに、セフィロスとは戦えない。俺は、心は弱いけど、セフィロスに刃を向けることができる−−−−



何時だったか、『彼』が言った言葉が頭を過ぎった。戦えない、とは、どういう意味なのか。



(そんな訳があるか。・・・・・俺は、俺自身でセフィロスと決着をつけてやる)



雨は、まだ降り続いていた。









End.
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