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□空ろな世界に
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「スコール!そんなトコで寝てたら、風邪引くっスよ!」
ティーダの声に、意識が浮上する。休憩のつもりが、眠ってしまったらしい。ぼんやりと声の主を見上げると、ニッカリと微笑まれた。
ポタ、ポタと、何か液体が落ちるような音と、不快な匂い。目覚めたばかりの頭は未だ常のように回らず、ただぼんやりと、目の前の少年には相応しくないな、と感じた。
「スコールってば!まだ寝惚けてんのか?」
ああ、これ以上待たせると煩くなりそうだ。そう思い、一度瞳を閉じ、眠気を払った。
刹那、藍の瞳が見開かれる。
「ティー、ダ・・・・・?」
「ん?何っスか?」
ティーダは常と変わらない、そう、何も変わらない、輝くような笑顔を浮かべている。周りの人間まで明るくなれるような笑顔に、背筋に冷たいものが走った。
「・・・・・誰、を・・・・?」
「え?・・・・・あぁ、コレ?」
ティーダの持つ剣から、血が滴り落ちている。絡まる金糸、銀糸、枯葉色。その見覚えのある、あり過ぎる色に、眩暈がした。
「そーだ!スコールには特別、コレ一個やるよ!」
茫然としているスコールに、ティーダが近付き、『何か』を持たせる。それを確認したスコールは、堪らずそれを投げ捨てた。
「−−−−ひっ!」
べしゃりと地に落ちたそれは−−−−眼球だった。不思議な色合いの蒼は、衝撃に耐え切れず、球体を崩した。どろりと液体が流れ、地面を汚す。
「あーあ、勿体ない。折角綺麗だったのに。」
ティーダの声に、弾かれたように彼を睨み据える。彼は、やはり笑顔だった。掌にある眼球を、愛おしそうに優しく撫でながら、うっとりと呟いている。
「スコールは同い年だしさぁ、前に『綺麗だ』って言ってたじゃん?だからあげたのに・・・・もうあげないぞ?コレは、オレの分。」
瞳の持ち主が、スコールの脳裏に映った。彼が今、どうしているかなど、訊くまでもない。殺されて、その後で瞳を抉られ・・・・・?
「ぅ、げ・・・・ぅえ・・・・!!」
途端に込み上げる嘔吐感に耐えるように、強く拳を握る。ティーダは、相変わらず楽しそうに笑いながら、美しい眼球を転がしていた。
「クラウドの言う『身体が頑丈』って、傷の治りが異常に早いことだったんスね。だから、皆みたいにすぐ壊れなくて、ちょっと可哀想だったなぁ。」
「・・・・・・っ何故!」
「うん?」
「何故、こんなことを!?」
信じたくなかった。彼が−−−−仲間を皆殺しにしたなど。
「だって、独りは嫌だったから。」
くすくすと、ティーダが笑う。まるで、幼子のように。
「オレ、気付いたんだ。皆壊しちゃえば、一緒にいられるって。」
「な、にを・・・・言ってるんだ?」
「オレ、皆のこと大好きっスよ?だから、スコールも壊させて?大丈夫、すぐまた逢えるっス!」
こいつは狂ってる。
「あぁ、でも、流石にクラウドは怒るかなぁ?痛かったみたいだし、あんまりにも綺麗だからって、瞳取っちゃったし。クラウド優しいから、赦してくれるかな?」
ゆっくりと近付くティーダに、スコールはガンブレードを構えた。切っ先が震えている。
恐怖でまともに動けないスコールと、笑顔のティーダ。どちらが優勢かなど、訊かなくても解る。
「じゃ、ちょっとの間だけ、バイバイ。」