PKSP2
□愛し君へ20
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逃げないのか、だって?
当たり前だろう?
これで何回目だろう。いい加減疲れてきた。
とりあえずできることはこっちでやってしまおうと、あちこちに電話を掛けては取引、掛けては取引の繰り返しだった。
関わりたくない世界ではあるが、この際つべこべ言っている余裕はない。
とにもかくにも、ある程度は有利に進められそうだ。
携帯をテーブルに置き、膝の上のピカチュウを撫でる。気持ち良さそうに擦り寄ってくる仕種に、頬が緩む。
「明日には、カントーに帰ろうか、ピカ。」
そう話し掛けると、賛成、と言うように一声鳴いた。
此処にいては、カントーの情報が手に入りにくい。従って、今、奴らがどの程度まで実験を進めているのかが判断できない。そのことが気掛かりだった。
オレの予想でしかないけど、もし、最終段階まで来ているとすれば。
トキワやマサラの子どもたちが危ない。
グリーンは気付いていたようだったが、この一連の事件で、被害者が出ていないのは、マサラとトキワ、この二つの街だけだ。
無論、偶然などではない。奴らは、最後の仕上げに、『失敗しにくい子ども』を使いたいのだ。
おそらく、見つかっていないだけで、掠われた殆どのポケモンが、その命を落としているだろう。
そして、子どもたちも。
せめて、まだ息のある子やポケモンは救いたいと、マサキに分離システムの再構築を頼んだのだが、そもそもが偶然の産物だ。上手くいく保証は、何処にもない。
「それでも、前に進まなきゃ、だな。」
誰に言うでもなく、呟いた。
そうだ。指を加えてただ見ているだけなんて、できる訳がない。
例え、どんな結末が待っていようと、己を信じて突き進むしかない。
・・・でも、叶うなら。
またマサラに帰りたい。あの暖かい日常へ、『幸せ』を教えてくれた場所へ。
そこまで考え、ふと止まる。
これじゃあまるで、死ぬみたいじゃないか。
無事では済まないとは思っているが、むざむざ殺される気はない。昔ならまだしも、両親の後を追うつもりも、今はない。
「墓参りにでも、行こうかな。」
自分の考えに苦笑して、気分を変えようと、レッドはわざと明るく言った。