PKSP
□愛し君へ16
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決めたんだ。
護ってみせる、って―――
シンオウ地方。生まれ育ったマサラと違い、酷く寒いところだ。
レッドは小さく息を吐いた。流石に夏場だということで、息こそは白くならなかったが、随分と涼しい。まるで秋だ。
レッドが今いるのは、マサゴタウン。穏やかな空気は、そこはかとなくマサラと通じるものがあるはずなのに、彼の表情は芳しくなかった。
迷いなく歩を進め、豪邸の前で立ち止まる。
とうとう着いてしまった。
「できることなら、もう来たくなかったんだけどな・・・。」
そう独りごちたが、歩みは止めない。それなりの覚悟はしてきたつもりだ。
ボールからカビゴンを出し、門を開けてもらう。嫌々来た割には、実に堂々とした態度だ。
勝手に門を開けて入ってきた少年に、使用人が慌ててすっ飛んできた。
「君、何をしているんだ!?勝手に侵入してくるなんて!!」
騒ぎ立てる使用人を醒めた目で見て、服の中に入れておいたペンダントを見せる。
途端に、使用人の顔が引き攣った。
「あ、あああ、貴方、は?」
「レッド・ベルリッツ。」
名を名乗ると、使用人は可哀想なくらいに震えだした。哀れに思ったレッドは、声を掛けた。
「ここ数年来てなかったから、知らなかったんだろ?黙っておくからさ、とりあえず部屋の用意してもらいたいんだけど。」
はい、ただいま!と叫び、使用人は一目散に駆けていった。
放置かよ、と思わないでもなかったが、まあいい。
屋敷の中に入ると、すでに情報が伝わっていたのか、随分とざわついていた。
わざとらしい媚びた声、聞こえよがしなヒソヒソ声。
いくらシンオウ一の名家といえども、使用人や一族の末端まで品位があるかと言われれば、そんなことはない。
降り積もる苛々を無視して、近くにいたメイドに声を掛ける。
「部屋の用意は?」
「は、はい、ただいま手配中です。もう少々お待ちを・・・。」
「失礼します。大旦那様がお呼びです、レッド様。」
話の流れを断ち切るように、年配のメイドがそう言った。冷たい瞳で、レッドを無表情に見つめている。この屋敷のメイド長だ。
コイツも相変わらずだな、とレッドは内心思った。彼女は、レッドや母・ハーライトを快く思ってはいない。
もっとも、それを堂々と口に出さない程度には、己の立場が判っているようだが。
「判った。すぐに向かう。・・・食事は部屋に持ってきてくれ。一緒に摂る気はない。」
それだけ言うと、メイド長に持っていた荷物を押し付けた。一瞬、憎悪すら感じるほどに睨まれたが、構わない。ちょっとした意趣返しだ。
それでも慇懃無礼に荷物を受け取ると、こちらへ、と案内を始めた。