PKSP
□Involuntary
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皆が大好きな君だけど
やっぱり一番に想って欲しいよ
「先輩!あたしとバトルばしてください!」
「ずりぃぞ野生児ギャル!!先輩、今日はオレとバトルしましょうよ!」
「あたしが先に約束したんやけ、あたしとしてくれますよね!?」
「お前な、こちとら一番弟子だぜ?」
また、始まった。
サファイアとゴールドが同時にレッドに会いに来ると、必ずこうなる。
シルバーとクリスタルはお互いの顔を見合わせて、深い溜息を吐いた。
「後輩に譲ってやる、という考えはないのかアイツは・・・。」
「ないんじゃないか?」
来るなりレッドに抱きついた(というよりも襲い掛かったに近い勢いだったが)二人のせいで、弾き飛ばされたピカチュウを宥めながら、グリーンが口を挟む。
「だってゴールドなんだから。」
「あの、グリーン先輩・・・」
「ん?」
「それはいくらなんでも・・・いえ、何でもないです。」
余りにもといえば余りの言葉に、フォローを入れようと思ったクリスタルだったが、現在進行形で後輩と同レベルで喧嘩しているゴールドを見ては、その気も失せてくる。
「でも、サファイアも問題ですよねぇ。レッド先輩に会ったら、いつもバトルバトルって。」
「お前が言うなよ、お前が。」
妙に慣れた様子で早々に放置を決めているルビーがのんびりと言い、エメラルドがツッコむ。
「っていうか、いいの?グリーン先輩。」
「何が?」
「アレ、放っといて。」
エメラルドが長い袖で、未だ争っているゴールドとサファイア、両腕を彼らに掴まれて動くに動けない状態にあるレッドを指す。
「・・・・・・・・・いいんじゃないか?」
今の間、何!?
一同は心の中でツッコんだ。
グリーンがこういう、含みのある発言をすることは珍しい。良くも悪くも、彼の言葉はいつも直球で、的確だ。
そんなグリーンが、こんなはっきりしない発言をしたのだ。
はっきり言ってしまうと、嫌な予感しかない。
(先輩さ、実は苛々してんじゃないの?)
(ありえるかも。だってさ、さっきまで二人っきりだったのを、僕らが乱入しちゃった訳だし。)
(ってことは、何、オレらも入ってるワケ!?)
ルビーとエメラルドが小声でこそこそと話し出す。
シルバーとクリスタルはグリーンの顔色を窺おうとするが、元来表情が表れにくいため、いまいちよく判らない。
特に不機嫌そうにも見えないが、機嫌が良いわけでもなさそうな・・・。
・・・実際には、レッドを取られて、多少は機嫌を損ねていたし、嫉妬もしているのだが、彼自身がはっりと意識できていないため、非常に解り難くなってしまっているのだが。
「レッド先輩〜!!」
「あ、てめ、それアリかよ!?」
「って、お前まで抱きつくなゴー!」
「ひっでぇ!!差別ッスよ!!」
「苦しいんだよ、ただ単に!お前ら力加減しないから!!」
そりゃあ、苦しかろう。
レッドとのバトル権の争奪戦も(無駄に)佳境に入ったらしく、二人ともあの手この手で彼を誘っている。
サファイアが抱きついたのを見て、ゴールドも真似をしているのだが、先程のレッドの言葉からすると、締め付ける、に近いのかもしれない。
余程苦しいのか、柳眉を顰め、二人を剥がそうとしている。
それでも実力行使に至らないのが、彼の優しさなのだろう。
「バトルなら順番にしてやるから、じゃんけんでもして決めろよ。」
二人を宥めるレッドだが、あたしが先、オレが先だと、全く決着が付きそうにない。
「?先輩?」
急に、先程まで傍観していたグリーンが、ピカチュウを抱き上げてレッドたちに近付いた。
「グリーン?どうした?」
レッドの問いに、ん、と答えにならない返事をしながら、ゴールドの頭の上にピカチュウを乗せる。
何がしたいのか、全く解らない。
一同が首を傾げる中、グリーンと目が合ったピカチュウだけは彼の行動の意味を理解したのか、ピカ!と可愛く返事をした。
した、途端。
びたんっ!!
「ンぶっ!!」
思い切り尻尾で顔面をはたかれ、ゴールドはそのまま仰向けにすっ転んだ。
どんだけの勢いで引っぱたいたんだよ、ピカ。
止める間もなく起こった行動に、レッドは驚くよりも呆れてしまった。
「サファイア。」
「は、はいっ!!」
グリーンに呼ばれ、ビクビクしながら返事をする。
あたしも、お仕置きばされるんやろか・・・?
そう思い身構えるサファイアだったが、頭を撫でられ、きょとんとする。
「レッド、痛い、って。」
「へ?・・・ああぁ、すまんち、レッド先輩!!」
慌ててレッドから身体を放すと、グリーンは急にレッドの腕を掴んだ。
そのまま出掛けようとする彼に、レッドが慌てて声を掛ける。
「ちょ、ちょっと、何処行くんだよ!?」
「何処でも。何処がいい?」
「はぁ!?何処がいい、って、だから何で出て行くんだよ!?」
「そうだな・・・じゃ、ピカ、何処がいい?」
「話聞け!!てか、会話しろ!!」
グリーンに話を振られたピカチュウは、ピッカ!と機嫌よく一声鳴くと、ゴールドの顔を踏み台に、レッドの肩に飛び乗った。
ぐえ、という声が聴こえたが、一向に気にしていない。
そのまま会話になっていない会話を続けながら、グリーンはレッドを引っ張って、何処かに連れて行ってしまった。
・・・嵐が去った・・・。
そんな気分だ。ゴールドが顔面を擦りながら、何やらぶちぶちと文句を言っているが、この際無視だ。関わりたくない。
「で、この後、僕たちどうしたらいいんでしょう?」
・・・あ。