佐助夢/幸村妹設定





普段屋敷から出られない私だが、珍しく外出の許可が出た。

ただし、1人ではないけれど。

佐「うーわ、見事に真っ赤だねえ」

「……」

赤や黄色の間を器用に飛び回る、緑。間の抜けた声に、私は思わずため息をつく。

彼は武田軍真田忍隊隊長、猿飛佐助。今日は私の護衛としてついてきてくれた。

ありがたいといえば、ありがたいのだが…

佐「みてみて〜、毛虫」

「ぴぎゃあああああ!」

佐助は私をからかうのが好きなようで、私の上げる悲鳴を嬉しそうに呑み込む。

本当は幸村兄様と来たかったのだが、信玄公との稽古があるとのことで、結局佐助がつくことになった。

そんな簡単に主の元を離れてよいのだろうか。
私は呆れてため息をつく。

佐「しっかし、凄い紅葉だねー。俺様の姿隠れちゃうくらい」

「…言われてみれば、そうだね」

サクサクと力なく横たわる枯れ葉を踏みながら、見上げる。

まさに見頃。
教えてくれた信玄公は、戦だけでなくわびさびにも長けているようだ。

紅葉、銀杏、それから名前の分からない木…。
狭い山道に沿って伸びる木はどれも色を纏っている。

春の瑞々しい色とはまた違う。

例えるなら、哀愁というか…。

佐「さ〜て、俺様はどこにいるでしょ〜か?」

「え!?」

ぼんやりしていると、頭上のどこかから楽しげな声が降ってきた。
気が付いたら、さっきまで見えていた佐助の姿が無い。

「ちょ、ちょっと!まさかかくれんぼなんて言わないよね」

佐「あはー、あったり〜」

「はあ!?」

かくれんぼが本職の忍に勝てるはずがないじゃないか。

仕方なく私は見上げたままなんとなくくるくる見回す。

「………」

風に踊る紅葉。

静けさのなかで掠れた音を出す。


「さすけー…」

まるで夜中に呼ぶかの如く、小さく佐助の名前を呼ぶ。
葉の音しかしないこの山道には充分響く。

まるで消えてしまったみたいに、姿は見つからない。

「…さすが忍だよね」

私はぽつりと呟いた。

佐助は忍だから、隠れるのは当然上手い。
そして、すぐに「消」えてしまう。

先日、女中から、遠い国の戦国武将付きだった忍の話を聞いた。

その武将と忍は恋仲だったが、忍は任務を全うし、命を落としたらしい。

つまり、忍は「消」えてしまった。
身も心も、存在も。

 

佐助も、いつかそうなってしまうんだろうか。

佐「ちょっとちょっとー!真面目に探してないでしょう」

ガサガサと音がしたと思ったら、佐助が降ってきた。

何故か分からないけど。
気が付いたら、右手が勝手に動いていて。
佐助の忍服をギュッと握っていた。

突然のことに佐助はギョッとした表情で私を見る。

佐「な、なになに〜?どうしたのさ」

「……っ、なんでもない」

佐「なんでもないわけないじゃない」

「……」

佐助がいなくなったときのこと考えたら。

その先を言うのがなんだか恥ずかしくなって、認めたくなくて。
口を噤んで俯いた。

今佐助はどんな顔してるんだろう。呆れてるのかな。
子供みたいなことしちゃったかと後悔したとき、ふと、何かが頭の上に乗った。

佐「いなくならないって〜」

「!」

まるで宥めるかのよう優しく降る声。
そしてゆっくり撫でる佐助の手。

「…さすけ」

佐「信じられない?」

少ししゃがんで私と目線を合わせ、首を傾げる。

私は、ふるふると横に首を振った。

佐「ま、もし俺様が消えちゃってもさ、探してくれればいいじゃない?」

そう言って佐助は、忍服を掴んでいる私の手に自分の手を重ねた。

佐「あ、でも見つけるのヘタクソかお姫様は」

「…ばっ、馬鹿にするな!」

ケタケタ笑う佐助に、私は頬を膨らませた。

「絶対見つける…。どんなに隠れたって、佐助は、私が絶対見つけるんだから!」

佐「…嬉しいお言葉だね〜」

















もういいかい、もういいよ













(佐助ー、どこでござるかー)

(…旦那ぁ、俺様ずっとここいるんだけど)

(お、おお!すまぬ)

(……兄妹揃って下手くそだな、かくれんぼの鬼)
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