H×B

相要
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◇◇◇


「ゆかり…居るかしら」

夕方。
槙はゆかりの部屋に向かっていた。それも、相当な急ぎ足で。
本来だったら朝一番に行きたかった。それなのに、こんな時間になってしまった。
それを少しでも取り戻したくて…急ぐ。

「…居なかったら…取り戻すも何もないんだけど…」

進む速度を少しだけ速めながら、小さくため息を吐いた。





―…プレゼントを持って、朝一番にゆかりの部屋に行き、おめでとうと言うつもりだった。それはもう、何日も前から考えていた事。

…だと言うのに。プレゼントにと注文した物が前日になっても届かない。と言う予想外の事態が起こってしまった。
昨晩からどうしようかと頭を抱えていたが、良い解決策が見つからないまま朝になってしまった。

それからはただ必死だった。出逢ってから初めて、ゆかりに逢わないように努めた。
きっと、言葉だけのお祝いでも、ゆかりは喜んでくれるだろう。それは解る。
でも…それは自分自身が赦さなかった。

槙にとっても、今日は特別な日。

ゆかりが産まれてきた日。

この日があったからこそ、今こうして出逢い、刃友なんてやっていて…恋人なんていう関係にもなれた。

だから、精一杯祝いたい。と。

そう考えていた。

だからこそ、ゆかりと顔を合わせないように努めたのだ。


―…そんな朝、昼を経由して、さすがにどうしようかと思案して居たときに連絡が入る。

注文していたものが届いた、と。


そして、今に至る。


次第に暗くなっていく廊下を、ただ、一人の大切な人の部屋まで

速く

速く


ただそう思いながら進んでいく…―


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