SYMPHOGEAR

Voce esta com ciume?
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少し面白くないモノを見た。
ただ…それだけ。
それだけの筈だった…のに。
生まれてしまった黒い感情は、心の奥底に澱む。

―…気持ちが悪い。

―…吐き気がする。

どうすれば…この澱んだ黒い感情はなくなる?

どうすれば…どうすればどうすればどうすれば…―



「…翼…ここの……、…翼?」
「…あ…な、何…?」
「…大丈夫か? なんだか変だぞ、今日の翼」

いつから呼び掛けられていたのか。目の前には心配そうに私を見る奏の顔。
それが思いの外至近距離だったから、少しだけ驚く。
…少し顔を寄せれば触れてしまいそうな…そんな距離。
それに気付いてしまうと、何だか奏の視線が妙にくすぐったく感じて…私は少しだけ視線を逸らしてしまう。

「その…、大丈夫…」
「そうは見えないから聞いてるんだぞ、翼」

そう言う奏の手が伸び、私の額へと添えられた。
一気に身体の体温が上がったような、そんな錯覚に陥る。

「んー…少し熱いけど、大丈夫そう…だな」
「熱、は無いから…」

そっか。と、少し安心したのか笑みを浮かべながら手を離そうとする奏。
…そんな奏の腕を、咄嗟に掴んでしまう。

「ん、翼…?」

少し驚いた様な、そんな視線が向けられる。
…正直、私自身も驚いていた。

何故、奏の腕を、掴んでしまったのか。

いくら考えても解らなくて、視線を下げつつ、奏の腕を掴んでいた手を離した。

「…ごめんなさい、…」
「いや、良いけどさー。…やっぱ、今日の翼…ちょっと変だ。何かあったのか?」

…なかったとは言い難い。
でも、それは本当に…些細な嫉妬なのだと、自分自身良く解っているから…それを奏に話して良いものか迷う。

…でも、その反面、言ってしまいたい。
奏は…私の、…だと。他の人なんて見ないで欲しいと。

――…あぁ、私は…なんて…。

自分の独占欲の強さに、思わず身が震えた。

「…翼?」
「その…今日、立花と…」
「ん? あー、響な。なんかさ、未来と喧嘩したとかでさー。ま、すぐ仲直りするだろうし…あ、そうそう。その後、クリスが…」
「…っ…」

立花、小日向、雪音。
奏の口から、名前が出ただけで胸の奥が軋んだ。
…駄目だ、耐えられない。

「…てか、響も何であたしに相談するんだか…なぁ、翼。…翼?」 「っ…かな、で…」
「うん? どうし…、…っ…ん、ぅ…」

再び立花の名を紡いだ唇を、自身のそれで塞いだ。
求める様に吸い付くと、奏の腕が背中に回り、抱き寄せられる。

…嫉妬のせいで黒く澱んだ感情が、穏やかになっていく気がした。

「ん…、…かな…で、…」
「…何となく、気になってたんだけど…もしかして翼、妬いてた?」
「っ…そ、れは…」

しばらくして、離れた唇を名残惜しく思っていた私に奏が問い掛けてくる。
余りにも的確な問いに、言葉を詰まらせてしまう。

「図星、か。…可愛いな、翼は」
「可愛くなんて、ない…」

胸の奥に溢れたのは、可愛いなんて言われるような…そんな感情ではなかった。
もっと黒くて、澱んだ…あまり人には知られたくない、そんな嫉妬、我儘、独占欲。

「…可愛いさ。それに、妬いてくれるって事は…それだけ、あたしを好きでいてくれるって事だろ?」
「それは…」
「違うのか?」
「…違わ、ない…けど」

何となく、真っ直ぐに奏を見ることが出来なくて視線を落とす。
表情も見られたくなくて…そのまま顔を奏の胸元に埋めた。

そんな私の頭を奏の手が撫でる。優しい感触に、小さく息が漏れた。

「嬉しいよ、妬いてくれて」

奏の優しい声が、私の心を穏やかにしてくれる。

先程よりも強く、更に密着するように奏の胸元に擦り寄った。
幸せな気分になる。
…奏の次の言葉を聞くまでの僅かな時間、だったけど。

「あー…そっか、可愛い翼を見たかったら響達と…痛っ!」
「奏の馬鹿、意地悪…っ」
「ちょ、翼…っ…冗談だから、叩くなって…っ!」
「笑えない冗談は許さない、から…っ!」



結局、奏が本気で反省をしお詫びの口付けを貰うまで…私は攻撃の手を緩めることは無かったのだった。





END




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