SYMPHOGEAR

日溜まりの様な。
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「あ…奏さーん!」

遠くにいてもよく目立つ、紅の羽のような髪型。
それが視界に入った刹那、響は大声でその人物の名を呼んだ。
ただ、呼んだ後でそれが失敗だったのではないかと思い、慌てて周りを見回す。

「んー? あぁ、響か。…って、どうかしたのか?」

自分を呼び止めておいて辺りをキョロキョロと見回している響に奏は不思議そうな表情と声音で問い掛けた。

「あー…いえ、その…ごめんなさい、大きな声で名前を、…」

ツヴァイウィングの知名度と人気を考えれば、その片翼である奏の名前を大声で呼んでしまった事を気にしての行為だったが、辺りには人影もまばらで、そもそも学院敷地内の為、生徒しかおらず、杞憂に終わった事に響は安堵の息を吐く。

「ま、学院内だし問題ないさ。ん、そーいや今日は未来と一緒じゃないんだな?」
「ちょっと補習を……私が。でも、そういう奏さんも、翼さんと一緒じゃないんですね?」
「ちょっと先生に呼ばれてさ…あたしが。…授業中に居眠りしすぎて」

お互いのパートナーが居ないことを問い、その返答を聞くとどちらともなく笑い声が漏れた。


なんとなく、と言ってしまえばそれまででは有るが、自販機で飲み物を買ってから学院内にいくつか設置してあるベンチの一つに二人並んで座った。

「いい天気ですねー…」
「いい天気だなー…」

ぼーっと空を見上げてそんな事を呟きながら、響は缶の紅茶に口を付け、奏は伸びをしながら欠伸を一つ。

「…よし、響。ちょっと膝貸してくれ」
「はぁ…、…って、えぇっ!?」

ぼーっとしていた為に反応の遅れた響の膝に頭を乗せるようにしながら、奏は寝転がってしまう。

「あ、あの…っ…か、奏さん…っ?」
「んー…、…あー…ダメだ、寝るな…これは」
「ちょ、…えぇ…っ」

既にウトウトしかけている奏を退ける事は出来ず、それでも焦った様子で響は辺りを見回した。

(こ、こんな所…翼さんに見られたら何て言えば…っ?)

響が内心こんな事を思っているとは全く気付かず、気持ち良さそうに瞼を閉じる奏。

「…奏、さん…」
「…なんかさ、響と居ると…妹を思い出すよ…」
「え、…妹…さん、ですか?」

奏に妹が居た、という話は初耳だった。

「ん、…あたしが14の時に死んじゃったけどさ…ノイズにやられて」
「…っ…」
「…生きてたら、響くらいだなー…とか、ちょっと思った」
「…奏さん…」

そんな話を、穏やかな表情で話す奏の髪をそっと撫でる。
ふんわりとした感触が響の心を落ち着かせ、その手の温もりが奏に安心感を与えた。

「だから、…あたし…は…、…」

そこで奏の言葉が途切れた。
代わりに聞こえてくるのは、小さな寝息。

「…あ。えぇ…と。…どうしよう、…」

話に耳を傾けていた為、退いてもらうタイミングを失ってしまったまま眠ってしまった奏を見つつ、響は小さく呟いた。
気持ち良さそうに眠る姿を見ると到底起こす気にはなれず、柔らかく髪を撫でるに留まる。

「うーん…翼さんに見つかった時になんて言おうか、今から考えておこう…」

そんな呟きと言い訳を考えるタイミングが少しばかり遅かったと知るのは、数分後の事…―――





「奏さん、大丈夫だったかな…」
「大丈夫だよ、…多分」

別れ際の様子が気になってか、響がポツリと呟く。
そんな響に、未来はそう答える。…多分、と付け加えたのは自信の無さを表しているかの様だった。

先程まで奏の居た位置に、入れ替わる様に未来が座っている。
たまたま一緒になったという未来と翼が、響達の所に来たのは半刻程前だった。
その後の事は…なんとなく、思い出したくない。

「でも、これだけ良い天気だったら寝ちゃうよねー」
「確かに良いお天気だけど…外で寝たら、風邪引いちゃうよ?」
「大丈夫だよ、すぐに起こしてくれればー」
「え? あ、…もう」

甘えたような声音で話す響に視線を投げ掛けのも束の間、未来は自身の膝…正確には太股の位置に僅かな重みと暖かさを感じた。

「えへへー、やっぱりするよりして貰う方が気持ち良いよね」
「するのは構わないけど、熟睡しちゃ駄目だからね?」
「んー…、うんー…だいじょーぶ、ねない…から…」
「って、もう…言ってる傍から…」

大切な幼なじみの呟きに小さく息を吐きながら口にするも、その表情は穏やかな物で。

…日が暮れる前には起こさないと。

そんな事を考えながら、しばらくの間、その幸せそうな寝顔を眺める事にした。





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