H×B
□It's with you.
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「…順、ごめんね…重くない?」
「んー? 全然。てかさ、夕歩軽すぎ」
背中から届く夕歩の声に、苦笑しながら答える。
夕歩の体重を重いなどと言っていたら、色んな意味で駄目だと思う。
主に、あたしの体力的な意味で。
「それよりさー…足、大丈夫? あたしとしては、そっちのが気になるんだよね」
あたしの大事な姫様が、背の上にいる理由。
お祭り。浴衣姿の夕歩。手に持つ鼻緒の切れた草履。
…以上、これで想像してください。ってな感じで。
「うん、大丈夫。…ありがと、順」
「いえいえ。これくらい、姫の為ならいくらでも」
「………」
「…って、アレ…夕歩?」
てっきり、いつもみたいに突っ込みがくるのかと思ってたけど…ちょっと様子が違う。
…なんだか、妙にしおらしい。
「夕歩…どうかした? 具合でも悪い?」
人混みに酔ったのか。
それとも…。
心配になって声を掛ける。…と、あたしの身体に回していた手にキュッと少しだけ力が籠った。
「順は…」
「うん?」
「…順は、いつも私の事を姫…とか呼ぶよね、…」
「んー…まぁ、あたしにとって色んな意味で姫様だしね。…でも、その度にわりと、ど突かれてる気がするけど」
あははー。とか笑いながら、口にする。
「…ん、…ごめんなさい」
「…へっ? いやいや、…何、どうしたの?」
耳に届いた夕歩の言葉に、少しだけ驚いた。
思わず、どうしたのかと問いかけてしまう。
「別に…なんとなく」
んん?
あたしの聞き方がまずかったのか、今度はちょっと拗ねたような声音。
…読めないなぁ…今日の夕歩は。
顔が見えないから、表情も解らないし。
…でも、まぁ…何となく、想像は出来る。
「ね、夕歩」
「…なに?」
「今度はさ、海に行こうよ」
…でも。と小さく背中から声が返る。
「でも、は無し。折角元気になったんだからさー…遊ぼうよ、目一杯」
「…順?」
「あたしが、どこだって連れてってあげるよ。んで、一緒に遊ぶの。楽しむの」
想像するだけで楽しい。
ワクワクする。
「どこでも行けるよ。二人なら」
「…、…うん」
「ありがと、順」
「いえいえ。…あー、今から楽しみだわー。夕歩の水着すが…、っ…いたっ…いたい、ちょ…っ! 夕歩、頭…ぐりぐり…って!」
「…私の感動を返して、…バカ順…っ」
「ってか、暴れたら危ないって…っ」
そんなやり取りをしながら、歩く帰り道。
ちょっと…いや、かなり。
あたしの心は満たされていた。
-fin-