H×B
□date on birthday
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「……」
待ってる時間というのは長く感じるもので。
ついつい、数分置きに携帯を見て時間を確認してしまう。
場所は駅前。
待ち人は槙先輩。
…と、いっても。先輩が遅れているわけではなく。
単に私が早く着きすぎてしまい、待ち合わせ時間までこうして何をするでもなく待つ事になってしまっただけで。
「あと、20分…か」
再び携帯を見る。
8月5日…9時40分。
待ち合わせの10時まで、あと20分。
時間が過ぎるのを待ちながら、昨日の電話を思い出していた。
*****
『ゆかり、明日誕生日だったわよね?』
「え? あ…はい、そうですけど」
夜、先輩から電話が掛かってきた。
帰省しているため、少しだけ久し振りな先輩の声に嬉しくなったのも束の間、突然誕生日の事を言われて驚く。
『その…明日、良かったらなんだけど…会えないかしら?』
…え?
『電話越しにじゃなくて、直接言いたいし…渡したい物もあるから。…どうかしら?』
「あ…だ、大丈夫です! 私も…その、先輩に会いたいです…し」
先輩からのお誘いを断るなんて出来る筈もなく。
むしろ喜んで。というテンションで。
『本当? 良かった。じゃあ、明日10時に…―』
*****
…と、いうやり取りを経て今日に至る。
「えぇ、と…」
小さく呟きながら再び時計をみてしまう。
…9時50分。
(あと、10分…か)
心の中で呟いた…その時。
「ゆかりー」
少し離れた辺りから私の名前を呼ぶ声。
視線を向けると、先輩が小走りでこっちに向かっていた。
あれ……なんだか、ちょっと…浮かれ気味?
なんとなく、先輩の様子がおかしく見えた。
…あぁ、もう。人にぶつかっちゃってるし…。
小さく息を吐く。
そうしながら、しきりに頭を下げて謝り、再びこちらへと向かってくる先輩の姿をじっと見つめていた。
「ゆかり…ごめんなさい、待たせちゃった?」
「いえ、時間前ですよ。…もしかして、それで急いでたんですか?」
「ゆかりの雰囲気が何時間もずっと待ってます、みたいな感じだったから…」
「さすがに、そんなには…」
待っていたのはせいぜい3、40分程。…しかも自分が早く来すぎたせいであって、先輩が遅れた訳じゃない。
その事だけはきっちりと伝えておく。
「…まぁ、それより。先輩、行きましょう?」
「あ…、…えぇ、そうね。時間がもったいないし」
私の言葉に頷く先輩。
そんな先輩の手を取る。
「ゆかり?」
「さ、行きましょう。今日は目一杯、楽しみたいんです」
そう口にして。
…先輩の事、言えないくらい自分が浮かれていた事に気付いた。
先輩を引っ張りながら、思う。
今日は、最高の誕生日になりそうだ…と。