H×B

don't stand it.
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「もーアレよ。はやてちゃんがねー」
「…順」
「でさー、そんときの綾那がさー」
「…順」
「まぁ、でもー前に比べれば満更でもなさそうでさー」
「…順」
「で…って、んー? 何、夕歩。まだまだ、これからが良いところなんだけど」

何度目かの呼び掛けに、ようやく話を止めてこっちを見る順。

そんな順に、私は溜め息を吐いた。

「何、じゃないし。…何で順が私の部屋に…っていうか、恵ちゃんは?」
「あー、増田ちゃんね。うん、部屋替わって貰った。1日だけだけど」
「な、…っ…」

いつまで経っても恵ちゃんが部屋に戻って来ないから、まさかとは思ってたけど…。

「全く…いつもいつも迷惑掛けて。順がため込んだり持ち込んだもの、片付けたのだって恵ちゃんなんだよ?」
「ぅ…、…ま、まぁ…そこは一応、ね。うん。反省してます」
「どーだか」

呆れついでに、もう一度溜め息を吐く。

「明日、恵ちゃんにちゃんと謝らないと…」
「…てかさー、姫…って、いだだだっ! 刀…っ…いた、痛いから…っ!」
「姫とかゆーな! …で、なに?」
「ったー…本当、容赦無いよね。…ま、いっか」

私が刀で数回叩いた所を擦りながら複雑そうな表情を浮かべる順。
少し気になって、刀を引っ込める。

それからもう一度、何?と問い掛けた。

「…うん。あのさ…」
「…ん」
「……キス、して良い?」

「………は?」

たっぷり30秒程掛けて、ようやく声が出た。

え…なに?
……キス…?

「な、ん…っ…順、…?」
「あはは。顔、真っ赤だよ、ゆーほ」
「っ…からかわな…っ…ぁ、…ん…っ」

からかわれたのかと思って文句を言おうとした矢先。
私の唇に、順のそれが重なった。

軽い…触れるだけの、キス。

「…っ…、…じゅ…ん…」
「…からかってなんかいないよ。本当にしたかったから、聞いたの」
「…いつもは、聞かないで…する、クセに…っ」

精一杯、睨んで抗議をする。

「んー? いつもみたく、不意打ちのが良かった?」
「ち、がうから…っ…そもそも、なんで急に…キス、なんて…」
「…だってさー、夕歩。何かにつけて増田ちゃん増田ちゃんってさー」
「……は?」

むー、と頬を膨らませながらそんな事を言う。

「順…、まさか…」
「んんー、いくら寛容な順ちゃんでも妬いちゃいますよー。せっかく二人きりなのに」
「それは、…順だってチビっ子と綾那の話してたじゃない」
「えー、それはまぁ…なんつーの? …そうでもしないと、…ほら、理性とかさ」

ふ、と視線を逸らしながらそんな事を言う。

「…理性とか、今更どの口が言うの?」
「ぅ、ぐ…っ…いやいや、ほら…ね。なんつーか、ね?」
「ね、じゃないし」

普段あんななのに、ここぞって時にはこうなるし。

まったく…。

なんて呟きながら、順の手を取って自分の方へと引っ張る。

「わ…っ」

驚いたような順の声と、床に倒れ込む音。

ベッドじゃなくて床だから、少し背中が痛かったけど…気にしない。

私に覆い被さるような体勢になり、口をパクパクさせながら固まっている順の頬に手を伸ばし…撫でる。

「ゆ、…夕歩さん…これは、その…一体、…?」
「っ…聞かないでよ、バカ順」
「ぅえ…っ…は、はい。すみません…っ…あー、…あのさ、夕歩…」
「…なに?」

少し眉を下げながら私を見る順。
困ったような、それでいて何処か嬉しそうな。
…そんな、曖昧な顔がちょっと可愛い。

「こんな事、されたら…止まんなくなっちゃうよ?」
「いいよ、止まらなくて」
「…滅茶苦茶に、しちゃうかもよ?」
「しないよ。…順だから」
「体調は…」
「もう、大丈夫だし。…、それを言い訳に我慢しないで」
「いや、別に我慢とか…っ…ん、…」

まだ何か言うつもりの順の唇を、今度は私から塞ぐ。

…慣れない行為に、心臓がばくばくと大きな音を立てた。

「ゆう、ほ…」
「大、丈夫…だから。順のしたいようにすれば、良いの」

…これは、精一杯の強がり。

本当は恥ずかしいし。

キス以上の事なんて今までしてこなかったから少し怖いし。

でも。

それでも。

「…良いの?」
「良くなかったら、言わない」

私が…私の事が好きなら。

したいように、して欲しい。

「ん、解った。…大好きだよ、姫」
「姫とかやめ…っ…ん、ふ…っ」

今日、三度目のキスは…少し深いもので。


順に溺れる…そんな夜の訪れを、全身で感じていた…―






***



−その頃−

「あのー…」
「ん? あぁ、夕歩と同室の…」
「久我さんがどうしても部屋を替わって欲しいって言うから…一晩、お世話になります」
「ったく、あいつは…。まぁ、そう言うことなら…えぇ…と、…ま…ます…、…益荒男さん?」

「増田だってばぁあぁっ! 」






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