H×B

8月5日
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『ゆかり、誕生日おめでとう』

電話越しの、先輩の声。
折角の言葉も、少しだけ、私を切なくさせた。

『本当は、直接言えたら良かったんだけど…』

そんな私の内心を悟ったように、先輩はそう言ってくれる。

「先輩の声が聞けただけで、嬉しいです。ありがとうございます…先輩」

勿論、それは嘘なんかじゃなくて。
これは私の本心。
そして…逢いたいと思ってしまうのも私の本心。

『ねぇ、ゆかり』
「…はい?」
『明日、逢えない?』

トクン…

先輩の言葉に、心が跳ねた。

『やっぱり、直接お祝いがしたいわ。あ、でも…都合が悪い様な…――』
「大丈夫です」

間髪を容れずに答える。
幸い予定もないし…先輩に逢える機会をみすみす逃す様な事はしたくない。

私の言葉に少しだけ驚いたような声を出しつつ、それでも良かった、と先輩は呟いた。


それから、待ち合わせの時間等を決め、名残惜しさを感じながら携帯を切る。

正直、内心、浮かれすぎていて。

先輩と交わした言葉の半分以上を覚えていない。

「…、…あれ…?」

だから、自分自身で取ったメモに、そんな声をあげてしまう。

だって、

…時間や待ち合わせ場所を書いたメモの隅に

『お泊まり』

なんて、

そんな文字を、

見つけてしまったから…。




「…え? い、いつの間にそんな話に?」






朧気な記憶との格闘、準備、色々な期待感で全くと言って良いほど眠れなかったのは、少し経ってからの事…―――




END




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