H×B

−incantation−
1ページ/1ページ

「…絶対叶う、恋のおまじない?」
「そそ。どうよ、興味あるでしょ? 奥さぁーん」
「ないわよ。…というか、何そのキャラ」

部室の窓…しかも外側から話し掛けてくる順に対してそう言葉を投げ掛けながら、溜め息を吐いた。

「ないの?」
「ない」
「本当に?」
「…あんまりしつこいと、窓、閉めるわよ」

最も、閉めた所で全く影響はないのだろう…そう解っているだけに、余計にイラついた。

「大体、絶対…なんて有り得ないわ。そんなに効くなら順が試してみればいいじゃない」
「んー…まー…あたしは試す必要無いって言うか…ほら、この世の可愛い子は全部あたしのモ…―――」
「閉める」
「わーっ…ウソウソ、冗談だって!」

全く…。

ポツリと呟きながら窓に伸ばし掛けていた手を引く。

「うーん…染谷も興味持つかなーと思ったんだけどなぁ…」
「その自信は何処から…」
「少なくとも、上条さんは興味持…ぁ…いやいや、なんでもない」
「…え…?」

急に先輩の名前が出て、少しだけ驚く。

…先輩が、恋のおまじないに興味を?

「順、今の…って、順?」

一瞬の隙を見せてしまったのがいけなかったのか、そこにはもう順の姿は無かった。

「全く…」

今日、何度目が解らない溜め息を吐く。

「それにしても…」

先輩が…、…。

「どうして…?」

…、…私が居るのに。

そんな事が頭の中を駆け巡った。


◇◇◇◇◇


「…ゆかり、帰らないの?」
「…え?」

先輩の声に、ハッとなる。
さっきまで居たはずの他の部員はいつの間にか居なくなっていて、窓の外から差し込む光はすっかりオレンジ色。
目の前のまっさらなカンバスが、差し込む色に染め上げられていた。

「…何か考え事?」
「…そんな顔、してますか?」
「してなかったら聞かないわ」

そう言って、先輩は眉を下げつつ苦笑を浮かべた。

「…、…先輩」
「何?」
「その…順に聞いたんですけど…」
「久我さんに?」
「絶対叶う、恋のおまじない…とかに興味を持ったとか…」

あぁ…と先輩は少しバツの悪そうな顔をした。
表情から察するに…本当の事らしい。

「先輩、もしかして…」

他に…?

とか、聞いてしまう自分が少し嫌になる。

でも、

「違うわ、ゆかり。そうじゃないの」

先輩はキッパリと否定をしてくれた。

「じゃあ…?」
「確かに興味は持ったけど、自分が試したいとかじゃなくて、その…同室の子が、ね」


事の顛末は、こんな物だった。


「先輩…すみませんでした…」

一瞬でも疑ってしまった自分を恥じた。
そんな私の手に先輩の手が重なる。

「…私は、もう…叶ってるから」
「ぁ…」
「…ゆかりは興味、持たなかった?」
「私は…、…」

…持ちませんでした。

そう言いながら、添えられていた先輩の手を取り、そのまま自分の方へと引き寄せ、その身体を抱き締める。

そうして、先輩の耳元で小さく呟く。


「私も、叶ってますから…」



…と。




END



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ