H×B

5月1日
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「…先輩、今日は何の日でしょう?」

朝…会って、開口一番。
そんな私の質問に、先輩は軽く首を傾げる。
一瞬、冗談かとも思ったけど…本気で考え始めた先輩を見て、その考えを改める。

「…先輩、本当に解らないんですか…?」
「…ごめんなさい。何の…日だったかしら」

…本当、先輩はしっかりしているようで何処か抜けている。
でも…そんな所が凄く可愛い。と思えてしまうのだから仕方が無い。

「先輩…今日は何日ですか?」
「今日? …5月……ぁ…っ」
「…解りましたか?」
「…えぇ」

日にちを確認した先輩。
今日が何日で、何の日だったか解ると、恥ずかしそうに手で顔を覆ってしまう。

「やだ…何か凄く…間抜けじゃない? …今の私…」
「そんな所も可愛いですよ」
「………」

私の言葉に、先輩の頬はますます赤みを増していく。

…うん。やっぱり、先輩は可愛い人だ。

改めて、再認識した。

「…おめでとうございます、先輩」
「うん…ありがと」
「それで…ですね。今日は先輩の誕生日…という事で、ささやかながらプレゼントを用意しました」
「そんな…良いのに。…気を使わせてしまったみたいで申し訳ないわ」
「気にしないでください。…私が、先輩にプレゼントをしたかっただけですから」

そう言って、なんだか恐縮してしまっている先輩に小さな包みを渡す。
少し躊躇いながらも受け取ってくれた先輩に、開けても良いかと聞かれ、私は小さく頷く。

「これ……絵の具?」
「はい。…先輩に似合いそうな色…選んでみました」

勿論、先輩が好きだと言っていた色も含めて。

そう小さく付け加える。

「…ありがとう、ゆかり。凄く嬉しいわ」

言葉以上に、先輩が笑顔を浮かべてくれていることを嬉しく思った。

「…良かったです。その…先輩が欲しがりそうな物が良く解らなくて…。絵の具なら、あっても困らないかな…と」
「確かに、こうして物を貰うのも嬉しいけど…私は、ゆかりの気持ちが何よりも一番、嬉しい」
「え?」

笑顔の先輩。
そんな先輩を、つい不思議そうに見てしまう。

…私の…気持ち…?

「プレゼントそのものより、それを選ぶ間、私の事を思ってくれていたでしょう?」
「あ…はい、それは勿論…」
「…それが嬉しかったって事」

そう言いつつ、先輩はプレゼント…絵の具を綺麗に包み直して、鞄の中にしまう。
その几帳面さが、先輩らしかった。

「…さ、そろそろ行かないと。遅刻なんてしたら大変だわ」
「…ですね」

時計を見ると、ギリギリ…と言う時間だった。
私達はどちらからともなく走り出す。



―…いっそこのまま…。


何て思った事は、秘密にしておこう。



少し先を走る先輩の背中を見つつ、そんな事を考えていた。





−FIN−




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