H×B

落花流水
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「先輩、少し…良いですか?」

星奪り終了後。
私は、教室に戻ろうとする先輩にそう声を掛けた。
振り向いた先輩は、些か不思議そうな顔をしている。

「どうかしたの? ぁ…星を奪るのに時間掛かりすぎたかしら…?」
「あ、いえ…そうじゃなくて…」

先程の星奪りを思い出してか、真剣な表情で呟く先輩に、私は少し慌てる。
否定をすると、先輩は表情を緩め、じゃあ何?と視線で問いかけてきた。

「その…」
『ぬがあぁあぁーっ!!』
「っ!?」

私が先輩への言葉を紡ごうとしたその刹那、聞き覚えのある声が耳に届く。


…私は敢えて向かないようにする。

それより、今、私は、槙先輩に、大切な話を…

「…無道さん…よね? あれ…」

―って…Σ先輩っ! 触れちゃ駄目ですっ! 其処は触れてはいけない所なんですっ!!―

…等という私の心の叫びなど届く筈もなく、先輩はその視線をしっかりと綾那の居る(であろう)方向へと向けてしまっている。

「相変わらずというか何というか…」

苦笑に近い…それであって優しげな笑みを浮かべながら声を漏らす先輩。

―…何故か、何と無く、イラッとする。

「そう…ですね…」

そのせいか、それに対する私の返答、その声は自分でも驚く程低く…そして冷たい。

「…ゆかり?」
「…行きましょう、先輩。アレに関わっても良いことありませんから」
「え…えぇ…」

綾那達を気にする先輩を急かすようにしてその場から離れる。

幸いだったのは、綾那達が私達が近場に居た事に気付かなかった事だろう。






―…結局。

タイムオーバーとなり、先輩に言いたい事の一つも言えなくなってしまった。

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