ORIGINAL

sweets
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「…ねぇ、澪玻?」
「……なに?」
「いやぁ…あんまりジーッと見られると、なんかこう…やりづらいと言うか…」

あまりにも至近距離であたしの作業を見ている澪玻に、苦笑しながらそう口にする。
その間も手は止めずに動かし、ボウルの中の材料を一つにまとめていく。

湯煎で溶かしたチョコレートとバター。
小麦粉、卵、グラニュー糖…ココア。

まぁ、察しの良い人なら…何を作ってるか解る…かな?

「だって久しぶりなんだもの、線のフォンダンショコラ」
「いや…だからといって、そんな至近距離で見なくても…顔、汚れても知らないよ?」

…うん。あたしのこの一言で、澪玻がどれだけボウルに顔を寄せてるか解って貰えるかと。

ちょっと手元が狂ったら、澪玻の顔にチョコ…とその他諸々混ぜ合わせた物がこう…ねぇ?

「大丈夫」
「…何、その自信」

きっぱりと言い切る澪玻に再び苦笑。

そうこうしている間に材料が混ぜ合わさった。
後は型に入れて、オーブンで焼くだけ。

「澪玻、そこにある紙の型取って」
「あ、うん」

最近は100均とかで、使い勝手の良い紙の型が売ってるんだよね。

とかどうでも良い説明をしつつ、澪玻が取ってくれた型に材料を流し込んでいく。

「よし…と。あとは、オーブンに入れて…と」

180℃に合わせて、9分。
あんまり焼きすぎるとチョコケーキになっちゃうから気を付けないと。

「………」
「……澪玻?」

今度はオーブンの前で、その中をジーッと見ている。
…甘いお菓子が絡むと、本当に子供みたいになってしまう、そんな彼女を可愛いと思ったり、ちょっと呆れてみたり。

オーブンの番は澪玻に任せて、焼き上がるまでの間に使った物の片付けをしておく。

そうしてる内に、設定した時間が経った事を知らせる音が鳴った。
竹串を持ってオーブンの前に行く。

「澪玻、ちょっと良い?」
「あ…うん」

きっと、あたしにしか解らないだろう。それくらい、ささやかな感じでウキウキした様子の澪玻に少しだけ退いて貰う。

オーブンを開け、見た感じ焼き上がっているソレに竹串を差してすぐにあげてチョコの付き具合を見る。

…うん、良い感じだ。

「よし、……すぐ食べる?」
「うん」
「…だよね」

あたしの問い掛けに即答する澪玻。
そんな彼女に出来立てのフォンダンショコラを二つお皿にのせてから持たせる。

「お茶淹れてくから、テーブルの上に置いて待ってて?」
「ん、解った」

頷きながらテーブルへと向かう彼女を見送ってからお茶の用意をする。
紅茶かコーヒーかで迷ったけど、気分的に紅茶…ってな訳で。

ティーポットとティーカップを持って、澪玻の元へ行く。

「お待たせ、紅茶で良いよね? 駄目っていっても紅茶だけど」
「うん…どっちかっていうと、紅茶な気分…かな」

おんなじだ。なんてちょっと笑ってから、カップに紅茶を注いだ。

「さて…じゃあ、食べようか?」
「うん」

さてさて、味はどうかな。

そんな事を考えながら、一口食べてみる。
…うん、ちゃんとチョコはとろけてるし…甘さもちょうど良い。
上出来かな。とか、自画自賛。

澪玻の感想も聞きたくて、視線を向ける。

…ん?

「澪玻? 食べないの?」

あんなに待ちきれない、みたいな顔をしてたのに…何故かチョコをじーっと見たまま手をつけようとしない。

「………」

チラッと、あたしの顔を見る。

…あー…はいはい。
…解りましたよ、お嬢様。

「…澪玻、…あーん」

スプーンで一口分取って、澪玻の口元に差し出す。
嬉しそうな顔をしながら、ようやくフォンダンショコラを口にしてくれた。

「…どう?」
「うん、美味しいよ」

そう言って澪玻は、満足そうな笑みを浮かべてから自分の分を食べ始めた。

…やれやれ。

小さく溜め息を吐きながら、あたしも自分の分を口に運ぶ。


チョコの甘さ故か、澪玻の可愛さ故か…

自分の頬が緩んでいるのに気付いたのは、少し経ってからの事だった。





−fin−


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