ORIGINAL
□幸せな厄日
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「んー…」
「………」
「んんー…」
「………」
「あー…あのさ、澪…」
「線、動かないで」
話し掛けようとした、あたしの言葉を遮るように澪玻の声が掛かる。
少し強めの口調に、はい…なんて小さく呟いた。
小さく息を吐く。
いや、溜め息なんてついたら、色々な人に怒られそうな気もするけど…。
何せ…、ね。
男性諸君ならやって貰いたいと一度は思ったことがある筈(あたし調べ)であろう、彼女に膝枕で耳掃除をして貰う…なんていうシチュエーション。
まぁ、今まさにそれを体験中な訳で。
「…っ…」
頭に感じる澪玻の膝の感触とか体温とかは心地好いんだけど…問題は耳の方。
なんていうか…くすぐったい。果てしなく、くすぐったい。
いや、気持ち良いんだけど、くすぐったさのが勝ってるって言うか。
…そんな状態だから、身体が自然に動いちゃうんだけど、その度に澪玻から動かないでと言われてしまう。
…澪玻は澪玻で、初めての行為に真剣そのもの。
手にもちょっと力が入っていて、それがまた少しだけ恐怖な訳でして…。
やっぱアレかな。
慣れって大切だね。やる方も、やって貰う方も。
…なんてしみじみ、思ったりして。
「…………」
「…………」
「えぇと…」
「……線」
「……はい」
か、会話が出来ない。
え…何? 耳掃除って、こんな緊張感もってする物なの?
というか澪玻の声に鬼気迫る物があるんだけど…。
澪玻の放つ良く解らない威圧感を感じながら、くすぐったさに耐えること数分。
「……よし」
「あ、終わった?」
ようやく、終わったようで。澪玻の肩からも力が抜けていくのが解った。
あたしも、ほぅ……と小さく息を吐く。
…膝枕自体は凄く気持ち良いから、そういう意味では終わるのがちょっと残念だったりするけどね。
そんな事を考えながら、身体を起こす。
そんなあたしに、澪玻が言う。
「次は逆の耳、やらないとね」
「へ? あー…」
…しまった。
なんか長く感じてたから忘れてたけど…まだ片方の耳しかしてなかったんだ…。
澪玻が膝をポンポンと叩いて、寝るように促す。
一度起こした身体を、今度は逆向きで寝直すことになってしまった。
外向きだったさっきと違って、内向きに。
…なんだか、妙に意識してしまうのは…仕方ないことだよね?
「じゃあ…動かないでね?」
「…はい」
くすぐったいやら恥ずかしいやら、さっきとはまた違った緊張感なり何なりを感じつつ。
耳掃除が終わる頃には、精神的にヘロヘロになってしまうのだった。
オマケ→