ORIGINAL

Testing courage.
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「………」
「…線? あの、あんまりしがみつかれると歩きにくいんだけど…」
「あー…あははーっ…な、何言ってんの? しがみついてなんてないよー…」

そう言いながら、尚も私の腕をしっかりと掴み、固い表情でぎこちなく笑う線。
予想外過ぎて、反応に少しだけ困ってしまう。

「…ねぇ、線…もしかして…怖いの?」
「ぅえっ!? そ、そんな事…ないよ…っ?」

…確定。
線は今の状況が怖いらしい。


今の状況…真っ暗な墓地を、懐中電灯一個で最奥に行き、そこに置いてある物を取ってくるという。

どうってことない、ただの肝試し。

…まぁ、経緯をかいつまんで説明をすると…単なるユウジ君の思い付き。特に断る理由もなく、参加することになった。
…ただ、それだけ。

思えば、その話をしていた辺りから線の様子がおかしかったんだけど…まさかここまで苦手だとは思っていなかった。

…でも。ホラー映画とか一緒に観た事ある筈だけど…その時は、こんな反応してなかった様な…。

……もしかして、我慢してたの?

「ねぇ、線。…もしかして、ホラーとか苦手?」
「ぅ…あ、いや…あの、ね…そう、ゾンビ! ゾンビとか洋ホラーは好きだよ?」

…ん?
という事は。

「…和ホラーは?」
「…………」

答える変わりに、私の腕を掴む線の手に力が籠った。

…なるほど、和ホラーが苦手らしい。

なんだろう…線の弱い所なんてそうそう見れないから、なんか新鮮。
ちょっと可愛いとか、不謹慎ながら思ってしまう。

「線、そんなに怖いなら早く目的の物、取って帰ろう?」
「う…うん、そうだね。…あ、いや…こ、怖くないよ? ない、からね?」

そんな線の言葉以降、しばらく会話が途切れる。
…うん、怖がってる線も可愛いけど、なんとなく可哀想な気もしてきた。

…と、同時にからかって見たくなるのは…普段されてる仕返しをしたいから…かしら?

ひとまず、どこまで駄目なのか確かめてみたくなったり。

「…ねぇ」
「え…な、なに?」
「妖怪って…」
「よ、妖怪? あははは。そんなものはいない」

物凄い真顔で返された。
尚も突っついてみる。

「…ぬりかべとかちょっと可愛くない?」
「はははは、なにいってんのー壁に目口あったらこわいでしょーかわいくなーい」
「…ぬりかべに口は無いから」

口とかあったらちょっと恐怖。
…なんとなく解った。
もう、きっと…鬼○郎レベルでもダメなんだと思う。

「うぅ…墓石とか、澪玻のせいでぬりかべみたいに見えてきた…もうヤダ、帰りたい…」
「…ごめんなさい。もう言わないから、早く行きましょう?」

これ以上からかうのはさすがに可哀想な気がして、線を引っ張るようにしながら奥へと歩みを進めていく。

お互い無言のまましばらく歩くと、遠目に柵みたいな物が見えた。
…うん、どうやらあそこが最奥みたい。

「えぇと…あ、これかしら?」

そこまで行くと、箱みたいな物が置いてあった。

「この中身、持ってけば終わり…だよね?」

確かに、中身を持ってくる様にと指示があった。早く終わらせたい一心か、線がさっさと箱を開けてしまう。

…と、線の動きが止まった。

「…線、どうしたの?」
「………」

箱の中身を凝視したまま、固まってしまっている。
気になって、私も箱の中を覗き込んでみる。

…そこには、良く見る感じのお菊人形が二体入っていた。

ほら、あの髪が伸びたとか伸びないとかいうやつ。

固まってる線を横目に、手に取ってまじまじと見てみると…大量生産なホラーグッズだという事が解った。

仕様なのか、二体の髪の長さが違う様に見えたけど…まぁ、気にしないでおこう。

「線、ほら…目的の物も手に入れたし、帰ろう?」
「………」

ギギギ…っと音がしそうなぎこちなさで振り返った線の手を取り、再び引っ張るようにしながら来た道を戻った。




「あ、おかえりなさい。…どうでした?」

戻った私達をユウジ君達が迎えてくれた。

「…あれ…なんか、線さん…様子が…大丈夫ですか?」

憔悴しきってる様子の線を見て、紗姫ちゃんが心配そうに声を掛けている。

そんな紗姫ちゃんに線は

「…大丈夫」

と、精一杯強がって見せていた。

「あ…はい、ユウジ君。これで良いのよね?」

そんな線に苦笑しつつ、ユウジ君に取ってきた人形を渡す。

「どうも。…あれ? これ、最後の一体でしたよね? 箱の回収って…」
「え? もう一体入ってたからそのままにしてきたけど…」

私達がみた箱にはもう一体、人形が入っていたとユウジ君に説明。
そんな私に、ユウジ君は首を傾げた。

「おかしいな…澪玻さん達が最後だから、もう人形は残ってない筈なんですが…」

…え?

あれ…じゃあ、私達がみたもう一体の人形は?

ふと、線の顔を見る。
…血の気が引くとはまさにこの事、といった顔色で複雑そうな表情をしていた。


その後、ユウジ君が箱を回収に行くも中には何も入っていなかったようで。

さすがの私も、背中に冷たい物を感じつつ、ヘロヘロ状態の線を家に連れて帰るのに残りの体力を費やしてしまうのだった。






−fin−


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