ORIGINAL

I banter.
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「うん、…このまま直帰するから後宜しくね」

直帰する旨を伝える電話を部下に入れ、それが済むと澪玻へと視線を向ける…と、彼女は此方ではなくビルとビルの隙間を見ていた。

「澪玻、どうかした?」

気になったので傍に寄り視線を辿ると…小さな仔猫が居た。
箱に入れられてる所を見ると、捨て猫の様だけど…。

「せめて…もう少し、人目につく所に…いや、捨てちゃダメなんだけどさ。そもそも」
「…うん…」

澪玻は小さく頷くと、その子を抱き上げた。

にゃー…と小さく声をあげる。

そんな仔猫の頭を、そっと撫でる彼女。

「…あ、…」

…と、不意に何かに気付いた様な表情を浮かべた。

「どうかした?」
「うん…この子、誰かが世話してくれてるみたい」

そう言われて仔猫が入ってた箱をみる。
…確かに、牛乳のパック等が置かれていて、誰かが世話をしている様な形跡はある。

「飼えない、事情のある人…かしら」
「どうだろ…普通のパック牛乳だし、子供って可能性のが高いんじゃないかな?」
「…?」
「ん?」

あたしの言葉に澪玻が不思議そうな顔をした。
あぁ…と小さく呟いてから口を開く。

「牛乳ってあんまり仔猫には飲ませない方が良いんだよ。この子は大丈夫そうだけど…消化が上手く出来なくて下痢しちゃう子もいるからさ」
「そうなの?」
「うん。一応仔猫用のミルクがあるんだけど…、値段も普通の牛乳よりするし…」

そう口にし、澪玻にも見えるようにしながら牛乳パックを手に取る。

「…給食の。って感じがしない?」
「…今って紙パックなの?」
「らしいよ」

そんな、どうでも良さげな会話の最中も澪玻は仔猫を抱いたままだった。
なんとなく考えが読めて、小さく息を吐く。

「…連れて帰る? うちのマンション、ペット禁止じゃないし」
「ぁ…」

あたしの言葉に、澪玻はハッとした様な表情になる。

何で解ったの?

みたいな感じ。
…いやいや、解りますって。

「まぁ、仕事で留守にしがちだから本当はあんまり良くないけどさ」
「…確かにね。あ…じゃあ、里親が見つかるまで…とか…、…あ…っ」

それなら。と答えようとした所で何かに気付いた様な表情を浮かべた澪玻が声を上げる。
それと同時に、仔猫を元居た箱の中へと戻してしまった。

「あれ? 澪玻、どうし…」
「線、こっち…っ」
「わわ…っ?」

急に手を引かれ、少し離れた所に連れていかれた。
…何が何やら、わからない。

「澪玻…?」
「ん、…」

不思議そうな視線を送ると、澪玻はあたし達がさっきまで居た場所を指差した。

…そこにはいつ来たのか、子供と女性が一人。

「…子供、…と母親かな? あー…もしかして?」
「うん…あの子、私達…というより、私が抱いてた仔猫の事チラチラ見てた気がして」
「そっか」

澪玻の話に耳を傾けながら、親子と思わしき二人を見る。
子供が一生懸命説得しようとする様子が伝わってきた。

「…あ、連れて帰るみたいだね」

しばらくして、子供が仔猫を抱き上げた。
遠目だけど、なんとなく嬉しそうな様子が伝わってきた。
…説得に成功したようで、なんとなく一安心。

「………」

ふと、澪玻に視線を向ける。
仔猫を連れて去っていく、そんな二人を見送る横顔は、なんだか嬉しさと淋しさが入り交じったような、複雑な表情だった。

「…帰ろうか?」
「…うん」

それには敢えて気付かないフリをし、それだけ言うと歩き出す。

それからしばらく、澪玻はあたしの後を着いてくるように歩いていた。

「…ねぇ、線」

…と、丁度信号で止まった時。ようやく隣に並び、声を掛けてきた。

「なに?」

敢えて、視線は向けずに短く答える。

「…ううん、何でもない」

そう言いながらも、澪玻はあたしの服の裾を軽く掴んでいた。

…仕方ないなぁ。

なんて、少しだけ苦笑しながら、その手を取ってそのまま繋ぐ。

「あれだね。うちには大きな甘えん坊さんが居るから、ペットは無理だね」
「な…っ」
「いやー、あれでしょ? あたしが仔猫にかまけたら妬いちゃったりするんでしょ?」
「し、しないわよ…っ……た、多分…」

そこで多分とか言っちゃう辺り、十中八九ヤキモチを妬くだろうな…と確信できるね。

頬を赤くし、少しだけ面白くなさそうな表情を浮かべる澪玻を横目に見つつ、信号が変わるのを待つ。

「………」

さっきまでとは違った意味で複雑そうな表情を浮かべる澪玻をからかってみようかな、なんて。


思い付いたのは、少しだけ後の話…―




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