ORIGINAL
□I want you.
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「あっっづー…」
休みなのを良い事に、リビングのソファでゴロゴロしていた線のそんな声が、次に聴くCDを吟味していた私の耳に届く。
振り向いて彼女を見た。
…もうダメ。みたいな顔をしている。
「ゔー…9月ってこんなに暑かったっけー…?」
「今日は暑くなるって、ニュースで言ってたよ?」
「うへー…」
あぁ…もう、そんなこの世の終わり。みたいな顔しなくても…。
そんな線も可愛い、なんて思ってしまう私もどうなの、とも思うけど。
「エアコン、入れる?」
「ん…お願い…」
ソファの上でぐったりしながら力無く手を振って答える線に苦笑しつつ、窓を閉めに行く。
そうしてからエアコンのリモコンに手を伸ばし、温度を確かめてスイッチを入れた。
「ありがと、澪玻…」
「うん。…けど、そろそろ起きたら?」
「うーん…」
私の言葉に何故か考え込むようにしながら声を漏らす。…なんだか嫌な予感がするけど…うん、気のせいだと自分に言い聞かせてみる。
「…線?」
「よし、澪玻がキスしてくれたら起きる」
…なんてお約束な事を言ってくるのだろうか。
しかも、別に朝でもなく…しっかりと寝てるわけでもないこの状況で。
「…線、それは…」
「ダメ?」
…どうかと思う。
という私の台詞は口から出ることはなかった。
だって、…ソファの上から私を見上げながら、そんな事を聞いてくる線と目が合ってしまったから。
…仕方がない。
小さく溜め息を吐きながら、線の要望に答える為に傍に寄る。
なんとなく気恥ずかしさを感じて、少しだけ視線を逸らしながら触れるだけのキスをする。
…と、次の瞬間。
「きゃ…っ」
腕を掴まれ、引き寄せられた。…完全なる不意打ちで、私はそのまま線の腕の中に納まってしまう。
「ら…線…?」
「やっぱり、キスだけじゃ起きられないかな…、…なんてね?」
ニンマリと笑みを浮かべながら、そんな事を言ってくる。
口調は冗談めかして。言葉の内容は真剣そのもので。
求められているんだと理解すると、身体が急激に熱を帯びていく。
―…顔が…熱い。きっと、赤いんだろうな…。
そんな表情を見られたくなくて、顔を線の胸元に埋めた。
そんな私の頭を、線が優しい手付きで撫でてくる。
「…良い?」
耳元に届いた小さな問い掛け。
そんな問い掛けに、私は頷く以外の術を知らないし、持ち合わせてなどいない。
エアコンの風で冷え始めた部屋で線の体温を感じながら、小さく…本当に小さく頷いて見せた。
「…馬鹿、…」
なんて、悪態をつきながら…―
−fin−