クラゲの皮をかぶった人魚姫
□待受け画像
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「リン、もうすぐ誕生日やん? 何か欲しいもんとかある?」
来る2月2日は俺の恋人、松岡凛の誕生日だ。結構早い段階からプレゼントに悩んでいたがいい案が浮かばず、結局本人のリクエストを募ることにした。
「……おま」
「はい、却下ー!!」
少し考えて出した答えを即刻棄却。
「最後まで言わせろよ」
「言わせんよ」
まったく油断も隙もあったもんじゃない。
「ってか誕生日とかいいって」
「そんなん言うなや。俺が祝いたいんやから」
前日の日曜日、ハルんチでパーティーする予定だけど、折角ならそれとは別でお祝いしたい。
「じゃあ友美に任せ……いや、ちょっと待て」
ふと凛が言葉を切った。
「お? 何かあった?」
「今度の日曜練習ないだろ?」
なかったな。確か設備点検がどうのこうのってミコ先輩が言ってた気がする。
「おう。デートでもする?」
特に予定も入ってなかったので提案。ハルんチパーティーは夕方からだから、それまでの時間は空いている。
「あぁ、そん時友美が女の格好して」
「ん?」
よく聞こえなかった。うまく空気が振動していないみたいだ。
「友美が女装」
「ん?」
何かおかしい。リンが言ってること、何かおかしい。大事なことなのでもう一度言っておく。リンの言ってること、おかしい!
「聞こえてんだろ」
「聞きたくないっ」
耳をふさいでもすぐに両手をとられる。
「誕生日のわがまま、聞いてくれんだろ?」
耳元で囁くとかどうなの!? 背中ぞわって! ぞわってするんだけど!!
「さっきは誕生日とかいいって言ってたやん」
うわぁ、俺今絶対顔赤い。すごく熱持ってる。
リンのドヤ顔ムカつく。
けど、リクエストを募ったのは自分だし(欲しいもののリサーチだったはずだが)、誕生日を引き合いに出されては仕方ない。ここは一肌脱いで、全力で女装してやろうと決める。
「男女のデートやったらエスコートは男の役目やろ。お前の誕生日やけど……当日楽しませてや」
「任せろ」
目尻にキスとかどんなけ気障……。もう様になりすぎててツラい、心臓が持たない。
「今度の日曜日、○○駅前な」
俺の言葉にキョトンとした目を向けてくる。
「同じ寮にいんだから一緒に行きゃいいだろ」
「お前俺を寮から女装させる気か。ミコ先輩の前で? わざとか? それ、わざと言ってんのか!?」
どんな羞恥プレイだよ、それ。
「お、おぅ、悪い」
「それに、待ち合わせした方がデートっぽいやろ?」
ニヤリと笑うと肯定の返事と共に頭をなでられた。リンの手は暖かくて気持ちよくて、大人しくなでられていた。