クラゲの皮をかぶった人魚姫
□5Fr.
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リンが好き。これはもう間違いなく自分の中にある想い。けど、持ち続ける訳にはいかない想い。現に、俺の挙動不審で心配も迷惑もかけている。さすがにこれ以上は俺も心苦しい。ちゃんと決着をつけよう。決着をつけて、自分の気持ちに整理をつけなければ。
「どういうつもりだ、友美」
で、今に至る。今、というのはまぁアレだ。流行りの壁ドンを、俺がリンにやっている状況だ。
「いや、別に。こうしたら何か変わるか分かるかするかな、と思って」
「はぁ?」
眉間にシワを寄せるリン。痕になっても知らないぞ。
「で? 何か変わるか分かるかしたのかよ?」
「何にも」
そう答えて壁から手を離す。リンの隣に座りこみ、大きく深呼吸。
「お前は? ハルに壁ドンした後、妙にやる気になってるけど、何か変わるか分かるかしたん?」
あ、壁じゃなくてフェンスだった。
不機嫌そうに眉を顰めるリン。何だ、覗き見かよという声が聞こえた。
「何言ってんのかは聞こえんかった。……けど、ハルにリン取られると思った。……そん時初めて気付いた。俺は、リンのことが好きや」
「友美…………?」
戸惑いの混じる声で俺の名を呼んだ。
……そうだよな。男が男に告られて困らない訳がない。でも余計な気は遣わせたくない。気持ちは伝えた。もう十分だ。
「聞いてくれてありがとう。明日から普通に戻るから、さっきのことは忘れて。困らしてごめんな」
立ち上がってリンの頭をくしゃくしゃとかき回す。
大丈夫。笑えてる。諦められる。忘れられる。大丈夫。俺は、大丈夫――。
先に寮戻ってるなー、と背を向けた瞬間、右の手首と次いで背中に痛みと衝撃が来た。秘技壁ドン返し! ってか? ヤバい。俺の思考回路がヤバい。
「リ……リン? 顔、怖い」
顔怖いし、顔近い。怒っててもキレーな顔してるなー。……いや、そんなのんきな状況でもないんだけど。
「言い逃げすんなよ」
俺の手を掴んでるのとは逆の手で壁を叩く。顔のすぐ隣だったから、不覚にもビビった。けど、俺も頭にきた。言い逃げって何だ。何で分かってくれないのか。
「俺の気持ちも察しろや! 俺もお前も男やねんぞ!? 気付いた瞬間玉砕やねんぞ!? それでも今の関係終わらせたくないから、友達として一緒におりたいから、この気持ちは抑えよう忘れよう諦めようとしてんねやろ!」
掴まれている手を解こうと抗う。この馬鹿力。手首に痣残ってそうだ。フツフツと怒りがわいてくる。
「ふっ……ハっ……ハハハっ」
「何がおかしいねんっ!?」
急に笑い出したリン。さらにイライラは募る。何でこの状況で笑えるんだ?
「いや、悪い。俺と全く同じこと考えてたからな」
腹を抱えて大笑いしてたリンが、さっきの俺と同じように俺の隣に座った。
リンの言ってることが理解出来ず、多分かなり間抜けな顔を晒した。リンは優しく笑って隣に座るよう促してくる。俺の好きな顔だ。……いや、そんな余裕ないんだった。とりあえず、腰を下ろす。
「意味がわからん」
説明しろ、と視線を投げる。
「俺も、お前が好きで、でも今まで通りでいたかったから、気付かれないようにしていた。けど、もうそんな必要なくなったな」
「……は?」
「俺もお前のことが好きだっつってんだよ」
「……はい?」
ちょっと待て。何言ってんだ、コイツ。どうなってんだ? 誰か説明を……説明をプリーズ! と心の中で叫んだところで何がわかる訳でもない。当然だ。
「俺もお前も男やで?」
「関係あんのか?」
……ないのか。
「あの辺りからカメラ出てきたり……」
「しねぇよ」
ドッキリでもない?
「冗談とか……」
「言ってるように見えるか?」
見えない。
「気付いた瞬間玉砕って……」
「お前が勝手にそう思ったんだろ」
普通そう思うだろう?
「でも……」
「でもじゃねぇよ。お前俺のこと好きなんだろ? なら信じろよ」
とか言われても……。
「まさか打ち明けることになるとは思わなかったし、お前から告ってきたのも予想外だったが……」
俺も、お前からそんな告白されるとは思ってもみなかったよ。
フワリと笑うリン。俺の好きな笑顔。でもいつもより少し赤い顔。それを見たら、俺の顔が一気に火照った。絶対リンに負けないくらい顔赤いと思う。
「好きだ、友美」
ブワワワワ。どうしよう。すごく、嬉しい。
「…………もっかいゆって!!」
「言わねぇ」
「もっかいー」
「うるせぇ」
リンは照れてるのか、顔を隠してしまった。……勿体ない。もっと見てたかったのに。
「リーン」
「あ?」
「俺も好き。リンのこと、好き」
「……あぁ」
「なぁ」
「何だ?」
「ホンマにえぇの?」
「あぁ」
「そっか」
もう悩まなくていい、諦めなくていいと分かったら、一気に安心した。……思ってたより緊張してたみたいだ。
リンの隣でヘラヘラ笑ってたら、変質者呼ばわりされてしまった。……納得できない。