クラゲの皮をかぶった人魚姫
□Happy Happy Greeting
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当然、自分の携帯(というかスマホだけど)はポケットの中にある。要は、岩鳶の奴らと少し別行動したかっただけだ。
目的はナギの誕生日を祝うこと。リンとは相談して、岩鳶の奴らには何も言ってない。折角みんなで集まるのならこの機会はちょうどいいし、ついでにサプライズにしてしまえ、となった。……もちろん言いだしっぺは俺だし、リンは協力してくれただけだ。
「お前あのタイミングで行くなら先に教えとけよ。俺連れてけよ」
俺からリンを引っ張っていかなかったことに、拗ねているらしい。
「鞄覗くタイミングで別れるつもりやってん。誘わんかったんも、リンやったら付き添いかって出てくれる思て。その方が自然やし」
本来の決行予定は駅だった。ICカードを取り出すタイミング。でも予定外に青いコンビニに寄ったので、少し早まっただけだ。
「焦ったつーの」
「ヘヘヘ」
大きな手で後頭部をわしゃわしゃされる。……リンになら悪い気はしない。
「ここか?」
寮近くにある洋菓子店。クリームが甘すぎず、アッサリしてて美味いと評判で、俺も胸を張ってオススメ出来る味だ。
カランコロンと涼やかな音と、可愛いお姉さんが笑顔で迎えてくれる。それに俺も笑顔で応えつつ、ショーケースに並ぶ様々な洋菓子を眺めた。
「わ〜美味そう。いっぱい種類あんねんなー。どれも捨てがたいなー」
「予約してんだろ? 選択の余地ないんじゃないのか?」
目移りしてると、正論突きつけられた。でも洋菓子って目に楽しいよな!
「あ、うん。そう。すいません、ケーキ予約してた矢吹なんですけど……」
さっきからリンにばっか目を向けてるお姉さんに声をかけると少々お待ちください、と奥へ引っ込んでいった。
「あのおねーさんリン狙いやな。ちょっとジェラシー感じるわ」
趣味は悪ないけどな、と隣にだけ聞こえる声で言うと、眉を寄せられた。
「あ? お前の気のせいだろ」
これだから無自覚は困る。お姉さん、こいつこう見えて結構泣き虫なんですよーとか、こいつの恋人男ですよー、俺ですよーとか暴露してやりたい。
「矢吹様、お待たせしました。こちらのケーキですね」
俺の名前を呼びつつも、チラチラリンに視線を向ける。……リンじゃないけど舌打ちしたくなる。が、そんなモヤッとした思いは、目の前のケーキで霧散した。それはイメージを伝えて創作してもらった特別性。普通のホールケーキより少し値は張るけど、その価値はある。
「わっほい! 超かわゆい! ナイスおねーさん!! あざーっす!!」
我ながら都合がいい。
「……いいのか? ホントにこれでいいのか?」
リンの反応は微妙だ。こんなに可愛いのに。
「プレートはいかがいたしましょう?」
「“渚お誕生日おめでとう”で。ろうそくはこれとこれ」
さすがにろうそく16本を挿すのは俺的に切ないので、最小本数1と6をかたどったろうそくで。
「思ってたより傑作やー。ナギ喜んでくれるかなー」
「さぁな」
リンの返事に感情は全く感じられなかったけど、その柔らかい表情に免じて許してやることにしよう。